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肩こりの原因は?運動で変わるのか:研究データから整理する


パソコン作業やスマホの時間が長いと、首から肩にかけて重だるくなる。多くの方が日常的に感じる「肩こり」ですが、実は、この言葉にぴったり当てはまる英語の医学用語はありません。今回は、肩こりについて、研究データでどこまで分かっているのかを整理します。

とくに、よく話題になる「運動で変わるのか」「ストレッチで治るのか」「何が発症に関わるのか」という点を、世界と日本のデータから見ていきます。

「肩こり」は、日本語独特の言葉

日本人にとってなじみ深い「肩こり」ですが、日本の研究者による論文では、「Katakori」にはこの言葉に明確な英訳がない、と説明されています。「kata」は首と肩、「kori」はこわばりを意味し、全体として、首や肩の不快感や鈍い痛みを指す言葉として定義されています(Sawada et al., 2016, Industrial Health)。

つまり肩こりは、「この数値以上なら肩こり」と決まった診断基準のある病名ではなく、本人の自覚症状をもとにした呼び方です。そのため、研究では「首の痛み(neck pain)」という枠組みで調べられることが多く、世界的なデータも、この枠組みで集計されています。

首の痛みは、世界的にもよくある不調

首の痛みの世界的な負担を推計した、2021年版の世界疾病負担研究(GBD)があります(GBD 2021 Neck Pain Collaborators, 2024, The Lancet Rheumatology)。2020年の時点で、世界で約2億300万人が首の痛みを抱えていると推計されています。

年齢を調整した有病率は10万人あたり2,450人で、1990〜2020年の30年間はほぼ変わっていません。男女別では、女性が2,890人、男性が2,000人と、女性のほうが高い結果でした。有病率のピークは、男女とも45〜74歳でした。

この集計はあくまで「首の痛み」を対象にしたもので、日本語の「肩こり」と完全に同じ範囲ではありません。それでも、40〜50代の女性が、有病率の高い年代・性別に当たることが分かります。2050年には、人口の増加と高齢化によって、患者数が約2億6,900万人(2020年から32.5%増)に増えると予測されています。

日本の働く人のデータ:何が「ひどい肩こり」の発症に関わるのか

日本の都市部で働く人を対象に、1年後の「重い肩こり」の発症に関わる要因を調べた前向きコホート研究があります(Sawada et al., 2016)。1,398人を追跡し、1年後に重い肩こりを新たに発症した人は3.0%(42人)でした。

統計的に有意に関連していたのは、次の3つでした。

  • 女性であること(調整後オッズ比 2.39、95%信頼区間 1.18〜4.86)
  • 睡眠時間が短いこと(同 2.86、1.20〜6.82)
  • 仕事上の問題を伴う抑うつ気分があること(同 3.11、1.38〜7.03)

研究者らは、肩こりの発症には心理社会的な要因が関わっており、職場でのメンタルヘルスの支援が予防の面で重要だと提案しています。姿勢や筋肉の問題だけでなく、睡眠や気分といった「体の外側の要因」も関係している、ということです。睡眠については、更年期と睡眠の関係や加齢による睡眠の変化の記事でも扱っています。

なお、発症した人が42人と少ないため、数値の幅(信頼区間)は広めです。「女性だから必ずそうなる」という意味ではなく、傾向として受け止めるのが適切です。

肩こり・首の痛み、運動で変わるのは「筋力トレーニング」
肩こり・首の痛み、運動で変わるのは「筋力トレーニング」

運動は、肩こり・首の痛みに効くのか

コクラン・レビューが示したこと

首の痛みに対する運動の効果は、27件の試験(3,005人がランダム化)を整理したコクラン・レビューで検討されています(Gross et al., 2015, Cochrane Database of Systematic Reviews)。

慢性の首の痛みについては、中程度の質のエビデンスとして、首・肩甲骨まわり・上肢の筋力トレーニングが、治療直後に中〜大程度の痛みの軽減をもたらしました(統合した標準化平均差 -0.71、95%信頼区間 -1.33〜-0.10)。筋力トレーニングとストレッチを組み合わせた運動でも、痛み(同 -0.33)と機能(同 -0.45)が改善しています。

一方で、ストレッチだけ、呼吸エクササイズ、全般的な体力づくりの運動は、痛みや機能を変えない可能性があるとされています(いずれも低い質のエビデンス)。急性の首の痛みについては、エビデンスが見つかっていません。

著者らは、高い質のエビデンスはまだないとしたうえで、慢性の首の痛みには、特定部位の筋力トレーニングを取り入れることが有益かもしれない、と結論づけています。最適な運動の量は、今後の課題です。ストレッチだけでは効果が期待しにくいという点は、ストレッチの記事で紹介した専門家のコンセンサス(ストレッチは姿勢を改善しない)とも、方向が一致します。

「1日2分」でも変わるのか

首や肩の痛みが頻繁にある、デンマークの働く成人198人(うち女性174人)を、ゴムチューブを使った筋力トレーニングを1日2分行う群、12分行う群、運動はせず健康情報だけを受け取る対照群の3群に分けて、10週間比べた試験があります(Andersen et al., 2011, Pain)。トレーニングは週5回、負荷を少しずつ上げていく方法でした。

対照群と比べて、首・肩の痛み(0〜10点)は、2分の群で1.4点、12分の群で1.9点低下しました。圧痛のスコアも、2分の群で4.2点、12分の群で4.4点低下しています。1日わずか2分でも、有意な改善が見られた点が注目されます。在宅ワークの合間の工夫については、在宅ワークの姿勢対策の記事でも紹介しています。

マッサージや温めることは、どう位置づければよいか

肩こりの対処として、マッサージや温めることを思い浮かべる方も多いと思います。マッサージについては、「血流が良くなってコリが取れる」という説明が、直接の測定では裏付けが弱い一方で、気持ちよさや痛みの軽減を否定するものではない、ということをマッサージの記事でお伝えしました。

温熱療法についても、腰痛を対象にした研究では、効果は小さく短期的で、運動を組み合わせると効果が上乗せされることが示されています。いずれも「楽にする」補助的な手段としては意味がありますが、先に見た筋力トレーニングのように、運動を置き換えるものではない、という位置づけです。

デスクワークの環境調整は、肩こりを防ぐのか

「椅子やマウス、腕置きを替えれば、肩こりは防げるのでは」と考える方も多いと思います。事務作業をする人の上肢や首の筋骨格系の障害に対する、人間工学的な介入を整理した、コクラン・レビューがあります(Hoe et al., 2018)。15件のランダム化比較試験(2,165人)が対象ですが、1件を除く14件は、バイアスのリスクが高いと評価されています。

結果は、一貫していません。腕の支持具(アームサポート)と、手の動きを変えた別のタイプのマウスを組み合わせると、首・肩の障害の発生が約半分に減り(リスク比 0.52、95%信頼区間 0.27〜0.99、中程度の質のエビデンス)、首・肩の不快感も軽くなりました(標準化平均差 -0.41、低い質)。しかし、別のタイプのマウス単独や、腕の支持具と通常のマウスの組み合わせでは、首・肩の障害の発生に、明確な差は見られませんでした。

作業環境の調整や昇降デスクは、上肢の痛みや不快感に影響を与えませんでした(それぞれ1件の研究)。追加の休憩を設ける取り組みは、データ入力作業者の首の不快感を、わずかに減らしていました(平均差 -0.25、非常に低い質)。人間工学の教育・トレーニングや、複数の介入を組み合わせた方法は、効果を示す根拠が得られていません。

著者らは、いくつかの介入で効果の可能性が示唆される一方、一貫した根拠はなく、質の高い研究が必要だとしています。「道具を替えれば解決する」わけではなく、先に見た筋力トレーニングのような運動と、環境の工夫を組み合わせるのが、現実的な考え方です。

鍼などの施術を受けることは、肩こりにどう効くのか

肩こりに対して、鍼治療を受ける方もいます。日本の肩こり(Katakori)を対象に、鍼の効果を二重盲検で調べた試験があります(Takakura et al., 2023, Medicina)。首・肩のこりがある400人を、①皮膚を貫通する本物の鍼、②皮膚に触れるだけの鍼、③皮膚に触れない「儀式」だけの鍼、④無治療の対照群の4群に、ランダムに割り付けています。

結果として、3つの鍼の群は、いずれも無治療の対照群より、施術の直後と24時間後に、首・肩のこりが有意に改善しました。本物の鍼は、24時間後の時点で、皮膚に触れない群より有意に良好でしたが、本物の鍼と皮膚に触れるだけの鍼の間には、有意な差はありませんでした。

著者らは、鍼の「儀式」を受けること自体が、主観的な改善に大きな影響を与えていると述べています。施術を受けた、という体験そのものが、こりの感じ方に影響する可能性があるということです。この試験は、単一の施設で、24時間後までの短期の結果を見たものである点には注意が必要です。

今日から取り入れやすいこと

  • 首・肩甲骨まわり・上肢を、軽い負荷(ゴムチューブなど)で動かす筋力トレーニングを、短時間でも続ける
  • ストレッチは気持ちよさとして取り入れつつ、それだけに頼らない
  • 睡眠時間を確保し、眠りの質も見直す
  • 仕事の負担や気分の落ち込みが強い場合は、一人で抱え込まず、職場や専門家に相談する
  • しびれ・腕の力の入りにくさ・安静時でも続く強い痛みがある場合は、医療機関を受診する

まとめ:肩こりは「姿勢」だけの問題ではない

肩こりは、日本語独特の自覚症状を指す言葉で、世界的には「首の痛み」として、中高年の女性に多い不調として知られています。発症には、女性であること、睡眠時間の短さ、仕事上の問題を伴う気分の落ち込みなど、姿勢以外の要因も関わっていることが、日本の働く人のデータから示されています。

運動については、首・肩甲骨まわりの筋力トレーニングに効果を示す根拠がある一方、ストレッチだけでは効果が期待しにくいと考えられます。「1日2分」の短い運動でも、痛みの軽減が見られた試験があります。肩こりを「姿勢の問題」だけで捉えず、運動・睡眠・心身の負担を含めて見直すことが大切だと考えています。

あわせて、デスクワークの環境調整は、組み合わせによって首・肩の障害を減らす可能性が示されたものの、全体としては一貫した根拠が得られていないこと、鍼などの施術を受けた体験自体にも、こりの感じ方を軽くする効果が含まれうることも、研究から示されています。道具や施術に頼りすぎず、運動・睡眠・働き方の見直しとあわせて考えるのが現実的です。

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参考文献

  • Sawada T, Matsudaira K, Muto Y, Koga T, Takahashi M. (2016). Potential risk factors for onset of severe neck and shoulder discomfort (Katakori) in urban Japanese workers. Industrial Health, 54(3), 230-236. DOI: 10.2486/indhealth.2015-0143
  • GBD 2021 Neck Pain Collaborators. (2024). Global, regional, and national burden of neck pain, 1990-2020, and projections to 2050: a systematic analysis of the Global Burden of Disease Study 2021. Lancet Rheumatol, 6(3), e142-e155. DOI: 10.1016/S2665-9913(23)00321-1
  • Gross A, Kay TM, Paquin JP, et al. (2015). Exercises for mechanical neck disorders. Cochrane Database Syst Rev, 1, CD004250. DOI: 10.1002/14651858.CD004250.pub5
  • Andersen LL, Saervoll CA, Mortensen OS, Poulsen OM, Hannerz H, Zebis MK. (2011). Effectiveness of small daily amounts of progressive resistance training for frequent neck/shoulder pain: randomised controlled trial. Pain, 152(2), 440-446. DOI: 10.1016/j.pain.2010.11.016
  • Hoe VC, Urquhart DM, Kelsall HL, et al. (2018). Ergonomic interventions for preventing work-related musculoskeletal disorders of the upper limb and neck among office workers. Cochrane Database Syst Rev, 10, CD008570. DOI: 10.1002/14651858.CD008570.pub3
  • Takakura N, Takayama M, Kawase A, et al. (2023). Acupuncture for Japanese Katakori (Chronic Neck Pain): A Randomized Placebo-Controlled Double-Blind Study. Medicina (Kaunas), 59(12), 2141. DOI: 10.3390/medicina59122141
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