「更年期に入ってから、夜中に何度も目が覚めるようになった」「なかなか寝つけなくなった」——こうした声は、当院でもよく耳にします。
更年期の睡眠の悩みというと、「ホットフラッシュ(のぼせ・発汗)で目が覚めるから」という理解が一般的です。今回は、この理解がどこまで研究データで裏付けられているのか、また、それだけでは説明しきれない部分があるのかを整理していきます。
「のぼせで目が覚める」だけではない
更年期の睡眠障害の原因として広く知られているのが、血管運動神経症状、いわゆるホットフラッシュ(のぼせ・発汗)です。急な体温上昇や発汗によって夜間に目が覚める、という経路は確かに存在します。
ただし、卵巣ホルモンと更年期の睡眠障害の関係を検証したシステマティックレビュー(Haufe, Baker, & Leeners, 2022, Sleep Medicine Reviews)では、エストロゲンやプロゲステロンといったホルモンは、のぼせを介した間接的な経路だけでなく、中枢神経系や体の末梢に直接働きかけることを通じても、睡眠に影響している可能性があると報告されています。
つまり、「のぼせで起きるから眠れない」という一つの経路だけでなく、ホルモンの変化そのものが、睡眠の仕組みに複数の形で関わっていると考えられているということです。
ホルモンの変化は、のぼせの有無とは別にも影響する
この点をさらに裏付けるのが、更年期の睡眠に関する別のレビュー(Baker, 2023, Climacteric)です。この中では、卵胞刺激ホルモン(FSH)の上昇や、エストロゲンの低下そのものが、のぼせがあるかどうかとは独立して、睡眠の質の低下と関連していることが紹介されています。
これは、「のぼせがなければ更年期でも睡眠は問題ない」というわけではなく、ホルモンバランスの変化そのものが、体感しにくい形でも睡眠に影響を及ぼしている可能性を示す結果だといえます。
「気のせい」ではなく、客観的な測定でも確認されている
「眠れない」という訴えは主観的なものなので、「年齢のせいで敏感になっているだけでは」と思う方もいるかもしれません。しかし、この点についても客観的なデータがあります。
更年期移行期にある女性159人を対象に、睡眠ポリグラフ検査(脳波や呼吸、体の動きなどを一晩かけて計測する客観的な睡眠検査)を用いて追跡した縦断研究(Matthews et al., 2021, Sleep)では、更年期が進行するにつれて、自己申告だけでなく客観的に測定した睡眠の状態にも変化が見られたと報告されています。
主観的な訴えと客観的な測定データの両方で裏付けが得られているという点は、更年期の睡眠の変化が、単なる思い込みではないことを示しています。
睡眠の質は、体全体の状態とも関わっている
さらに興味深いのが、睡眠の質と体の他の指標との関連です。更年期・閉経後の女性217人を対象にした研究(Zhang et al., 2021, Medicine)では、睡眠の質が悪いグループほど、ホモシステインやCRP(炎症の指標)、脂質(コレステロールや中性脂肪)の値が高かったと報告されています。
この研究では、これらの値が睡眠の質の低下に対する独立した危険因子として位置づけられています。ただし、この研究は特定の時点での関連を見たものであり、「睡眠が悪いから炎症・代謝の数値が悪化するのか、その逆なのか」という因果の方向まではこの研究だけでは断定できません。いずれにせよ、更年期の睡眠の問題が、単なる寝不足の悩みにとどまらず、体全体の状態と結びついている可能性がある、という視点は押さえておきたいところです。
更年期の進行とともに、眠りの悩みはどう変わるか
更年期の睡眠の変化を、より長い期間・多くの人で追跡した研究があります。米国の全米女性健康調査(SWAN)では、閉経前〜閉経移行期の早期にあたる42〜52歳の女性3,045人(白人・黒人・中国系・日系・ヒスパニック系)を、7年間にわたって追跡しています(Kravitz et al., 2008, Sleep)。
その結果、閉経移行期が進むにつれて、「寝つきにくい」「眠りを保ちにくい(途中で目が覚める)」と答える確率は上昇していました。一方で、「早朝に目が覚めてしまう」確率は、閉経移行期の後期から閉経後にかけて、むしろ低下していました。
また、ホットフラッシュの頻度が多いほど、すべての睡眠の困難と関連していました。ホルモンの面では、エストラジオールの低下は「寝つきにくさ」と「眠りの保ちにくさ」に、FSHの上昇は「眠りの保ちにくさ」に関連していました。「更年期になれば睡眠の悩みが全部まとめて増える」というより、悩みの種類によって推移が異なる、という点は覚えておきたいところです。
見落としたくない、睡眠中の「無呼吸」
更年期の睡眠トラブルというと、ホルモンやのぼせに目が向きがちですが、睡眠中の呼吸の問題も関わりうることが示されています。米国のウィスコンシン睡眠コホート研究(Young et al., 2003, American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine)では、589人の女性を一晩の睡眠ポリグラフ検査で調べ、閉経の状態と睡眠時の無呼吸・低呼吸との関係を分析しました。
年齢・体格・喫煙などを調整したうえで、1時間あたり5回以上の無呼吸・低呼吸があるオッズ比は、閉経前の女性を基準にすると、閉経後で2.6倍、閉経移行期では1.2倍(統計的に有意ではない)でした。1時間あたり15回以上でみると、閉経後で3.5倍でした。
著者らは、いびきや日中の眠気、熟睡感の乏しさを訴える更年期の女性では、睡眠時呼吸障害の評価を優先すべきだと述べています。「ホルモンのせい」と決めつけずに、いびきや日中の強い眠気がある場合は、一度専門の医療機関で相談してみることも選択肢です。
薬に頼らない選択肢:不眠のための認知行動療法(CBT-I)
更年期の不眠に対して、薬以外の方法の有効性を検証した試験もあります(McCurry et al., 2016, JAMA Internal Medicine)。40〜65歳の閉経移行期・閉経後の女性106人(中等度の不眠症状があり、1日2回以上のホットフラッシュがある)を対象に、電話で行う不眠のための認知行動療法(CBT-I)を6回・8週間受ける群と、更年期に関する情報提供のみの対照群を比べた、ランダム化比較試験です。
CBT-Iは、睡眠制限(床で過ごす時間を調整する)、刺激統制(寝床と眠ることを結びつけ直す)、睡眠衛生の教育、考え方の癖の修正などを組み合わせた治療法です。8週間後の不眠重症度(ISI)スコアは、CBT-I群で9.9点、対照群で4.7点低下し、その差は5.2点(p<.001)でした。
「不眠がない範囲」まで改善した人の割合は、8週時点でCBT-I群が70%(33/47人)、対照群が24%(10/41人)、24週時点ではCBT-I群が84%(37/44人)、対照群が43%(16/37人)で、差は半年近く維持されていました。
注目したいのは、ホットフラッシュの「回数」には群間差がなかったのに、眠りは改善していた点です(ホットフラッシュによる生活への支障は、CBT-I群で軽くなっていました)。のぼせが続いていても、眠りの悩みに対しては別のアプローチで改善できる余地がある、ということを示しています。ただし、対象は106人・単一施設の試験である点は割り引いて考える必要があります。また、睡眠制限などの方法は自己流で行うとかえって負担になることもあるため、専門家の指導のもとで進めるのが前提です。
まとめ:単一の原因ではなく、複数の要因が重なっている
ここまで見てきたように、更年期の睡眠の変化は、「のぼせで目が覚める」という一つの経路だけでなく、ホルモンバランスの変化そのものが直接・間接に関わっている複合的な現象だと考えられます。
主観的な訴えだけでなく客観的な検査でも確認されていること、そして睡眠の質が炎症や代謝といった体全体の状態とも結びついている可能性があることも、あわせて知っておきたいポイントです。
「更年期だから仕方ない」と一括りにせず、生活習慣も含めて体の状態を見ていくことが大切だと考えています(睡眠の変化の出方には個人差があります)。

あわせて、閉経移行期の進行とともに「寝つきにくさ」「眠りの保ちにくさ」が増えること、閉経後は睡眠時の無呼吸の頻度も高まりうること、そして認知行動療法が更年期の不眠に有効だったことも、研究から示されています。のぼせやホルモンだけに原因を絞らず、呼吸や睡眠習慣の面も含めて見直すことが大切だと考えています。
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参考文献
- Haufe A, Baker FC, Leeners B. (2022). The role of ovarian hormones in the pathophysiology of perimenopausal sleep disturbances: A systematic review. Sleep Medicine Reviews, 66, 101710. DOI: 10.1016/j.smrv.2022.101710
- Baker FC. (2023). Optimizing Sleep across the Menopausal Transition. Climacteric, 26(3), 198-205. DOI: 10.1080/13697137.2023.2173569
- Matthews KA, Lee L, Kravitz HM, Joffe H, Neal-Perry G, Swanson LM, Evans MA, Hall MH. (2021). Influence of the menopausal transition on polysomnographic sleep characteristics: a longitudinal analysis. Sleep, 44(11), zsab139. DOI: 10.1093/sleep/zsab139
- Zhang H, Wang Q, Deng M, Chen Y, Liu W, Huang J, Zhang Z. (2021). Association between homocysteine, C-reactive protein, lipid level, and sleep quality in perimenopausal and postmenopausal women. Medicine (Baltimore), 100(51), e28408. DOI: 10.1097/MD.0000000000028408
- Kravitz HM, Zhao X, Bromberger JT, Gold EB, Hall MH, Matthews KA, Sowers MR. (2008). Sleep disturbance during the menopausal transition in a multi-ethnic community sample of women. Sleep, 31(7), 979-990. PMID: 18652093
- Young T, Finn L, Austin D, Peterson A. (2003). Menopausal status and sleep-disordered breathing in the Wisconsin Sleep Cohort Study. Am J Respir Crit Care Med, 167(9), 1181-1185. DOI: 10.1164/rccm.200209-1055OC
- McCurry SM, Guthrie KA, Morin CM, et al. (2016). Telephone-Based Cognitive Behavioral Therapy for Insomnia in Perimenopausal and Postmenopausal Women With Vasomotor Symptoms: A MsFLASH Randomized Clinical Trial. JAMA Intern Med, 176(7), 913-920. DOI: 10.1001/jamainternmed.2016.1795

