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猫背は呼吸を制限する?姿勢と呼吸機能の関係を研究データから解説


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「猫背だと呼吸が浅くなる」——そんな話を耳にしたことはありませんか。

これまでの記事でお伝えしてきたように、身体に関する通説は、実際の研究で確認すると、思っていたよりも単純ではないことが少なくありません。

姿勢と呼吸の関係も、その一つです。実は、姿勢と呼吸機能の関連を調べた研究の結果は、研究によって異なります。

この記事では、呼吸の仕組みと胸郭の動きを整理しながら、姿勢と呼吸機能の関係について、研究データをもとに解説します。

呼吸の仕組みと胸郭の動き

呼吸は、肺そのものが自力で膨らんだり縮んだりしているわけではありません。

横隔膜や、肋骨の間にある肋間筋などが働くことで、胸郭(肋骨・胸骨・背骨で囲まれた部分)の体積が変化し、その結果として肺に空気が入ったり出たりしています。

そのため、胸郭がスムーズに動けるかどうかが、呼吸のしやすさに関わっていると考えられています。

「猫背」という言葉と「胸椎後弯」は同じではない

研究データを見ていく前に、一つ整理しておきたい点があります。

日常会話でいう「猫背」と、研究で測定される「胸椎後弯」は、必ずしも同じものではありません。

見た目として肩が前に出ている姿勢と、胸椎そのものの後弯角度が大きい状態では、身体の状態が異なる場合があります。

この記事で紹介する研究の多くは、レントゲンや専用の測定器を使って「胸椎後弯」という具体的な角度を測定したものです。一般的に「猫背」という言葉が指すイメージよりも、狭く、客観的な指標であることを踏まえて読んでいただくと、より正確に研究結果を理解できると思います。

姿勢と呼吸機能の関係については、研究によって結果が異なる

姿勢と呼吸機能の関係については、研究によって異なる結果が報告されています。

その背景には、対象者の年齢や健康状態だけでなく、「姿勢」をどのように測定するか、どの程度の後弯を対象とするか、呼吸機能をどの指標で評価するかといった違いも関係している可能性があります。

高齢者を対象にした研究では、相関の方向がまちまち

2020年に発表された、65歳以上の高齢者66人を対象にした研究では、胸椎の後弯(猫背の指標のひとつ)と肺機能(FVC・FEV1・VC)の間に、弱い正の相関がみられたと報告されています(Ueawattanasirikul et al., 2020)。

つまり、この研究では、後弯が強い人の方が、むしろこれらの値がやや高い傾向にあったということになります。

同じ研究では、胸椎の後弯と呼吸筋力(最大吸気圧・最大呼気圧)との間には、統計学的に意味のある関連はみられなかったとされています。

別の研究では姿勢と呼吸機能に関連がみられた

一方、マレーシアの地域在住高齢者68人を対象にした別の研究では、胸椎の後弯が強いほど、肺機能(FEV1・FVC)や、呼吸に関わる筋肉(肋間筋・横隔膜)の厚みが低い、という負の相関が報告されています(Rahman et al., 2017)。

このように、対象者や測定方法が異なる研究の間で、姿勢と呼吸機能の関連の強さや方向は一致していません。

「相関」と「因果」は同じではない

ここで注意したいのが、「相関がある」ことと「姿勢が原因で呼吸機能が低下する」ことは同じではないという点です。

例えば、胸椎後弯が強い人ほど肺機能が低いという結果が出ても、それだけで「猫背が肺機能を低下させた」とは判断できません。身体活動量、年齢、既往歴、体格など、別の要因が両方に影響している可能性があるためです。

つまり、研究で示されている「関連」は、あくまで姿勢と呼吸機能が同時に観察された、という段階の情報であり、片方がもう片方の直接の原因であると証明するものではありません。

なぜ結果が分かれるのか

考えられる理由のひとつは、猫背の程度の違いです。

医学的に構造的な変形とされるレベルの強い後弯(圧迫骨折などによる場合)がある場合には、呼吸機能の低下が比較的明確に報告される一方、日常的にみられる軽度〜中等度の姿勢の変化では、呼吸機能への影響がはっきりと表れないことも少なくないと考えられます。

つまり、「猫背だから呼吸が浅くなる」と一律に言い切れるものではなく、姿勢の程度や個人差、そして測定方法の違いによって、結果の出方が変わる可能性があります。

身体の位置そのものが呼吸機能に影響することを示す研究

一方で、身体の位置そのものが呼吸機能に影響することは、別の研究群からも示されています。

2018年に発表されたシステマティックレビューでは、43件の研究をまとめて検討し、健康な成人を含む多くの対象者において、仰向けの姿勢よりも、座った姿勢や立った姿勢のような、より直立した体位の方が、肺活量(FVC)や1秒量(FEV1)などの値が高くなる傾向があったと報告されています(Katz et al., 2018)。

ただし、これは「姿勢が良くなれば猫背が治り、呼吸が改善する」という話ではありません。あくまで、仰向け・座位・立位といった身体の位置そのものが、その場の肺機能の測定値に影響するという内容です。

このため、この記事の結論としては、「猫背と呼吸はまったく関係ない」というより、「姿勢と呼吸は関係する可能性があるが、『猫背だから呼吸が浅い』と単純化するのは適切ではない」と捉えていただくのが、実態に近いと考えられます。

姿勢を変えると呼吸機能が変化する可能性

姿勢へのアプローチが呼吸機能に良い影響を与える可能性を示した研究もあります。

2020年に発表された研究では、胸椎の後弯がある若年成人を対象に、大胸筋・小胸筋のストレッチや、筋肉へのアプローチ(マッスルエナジーテクニック)を行ったところ、後弯が減少するとともに、肺活量(FVC)が有意に増加したと報告されています(Park & Choung, 2020)。

この研究は少人数を対象にした介入研究であり、この結果がすべての人に当てはまるとは限りません。しかし、姿勢に関わる筋肉の柔軟性を保つことが、呼吸のしやすさに何らかの形で関わっている可能性を示していると考えられます。

「呼吸が浅い」と「肺機能」は別物

「呼吸が浅い」という表現は日常的によく使われますが、医学的な肺機能検査で測定されるFVCやFEV1と、本人が感じる「呼吸の浅さ」は同じものではありません。

呼吸のしづらさには、肺そのものの状態だけでなく、呼吸筋、胸郭の動き、呼吸のパターン、心理的な要因など、さまざまな要素が関係すると考えられています。

そのため、「呼吸が浅い気がする」と感じたときに、その原因を姿勢だけに絞り込むのではなく、さまざまな可能性を視野に入れていただく方がよいと考えています。

日常でできること

姿勢と呼吸機能の関係を完全に断定することはできませんが、次のような取り組みは、無理なく続けやすい工夫として挙げられます。

  • デスクワークの合間に、胸を開くような軽いストレッチを取り入れる
  • 長時間同じ姿勢を続けず、姿勢を変える機会をつくる
  • 無理に深呼吸を繰り返すのではなく、普段の呼吸を止めず、楽に呼吸できる姿勢を意識する
  • 息苦しさや呼吸のしづらさが続く場合は、自己判断せず医療機関に相談する

まとめ

「猫背だと呼吸が浅くなる」という説明は、身体の構造を考えると理解しやすいものです。しかし、実際の研究では、姿勢と肺機能の関連は必ずしも一貫していません。

一方で、身体の位置や胸椎の後弯が呼吸機能と関連することを示した研究もあり、姿勢と呼吸がまったく無関係というわけでもありません。

大切なのは、「猫背=呼吸が浅い」と単純に考えるのではなく、姿勢の種類や程度、胸郭の動き、呼吸筋、身体活動量など、複数の要素から考えることです。

姿勢を整えることは、見た目だけの問題ではありません。呼吸のしやすさを含め、自分の身体を動かしやすい状態に保つという視点から考えてみることも大切です。

次回は、ビタミンD・カルシウムと骨の健康について解説していきます。

参考文献

Ueawattanasirikul C, Boripuntakul S, Wonglangka K, Pinkaew D. Correlation between thoracic kyphosis and pulmonary function in elderly. J Assoc Med Sci. 2020;53(2):23-30.

Rahman NNA, Singh DKA, Lee R. Correlation between thoracolumbar curvatures and respiratory function in older adults. Clin Interv Aging. 2017;12:523-529. DOI: 10.2147/CIA.S110329

Katz S, Arish N, Rokach A, Zaltzman Y, Marcus EL. The effect of body position on pulmonary function: a systematic review. BMC Pulm Med. 2018;18(1):159. DOI: 10.1186/s12890-018-0723-4

Park JW, Choung SD. Effects of the muscle energy technique and the self-stretching exercise of the pectoralis minor on the pulmonary function of young adults with thoracic kyphosis. J Musculoskelet Sci Technol. 2020;4(1):6-12.

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