マッサージを受けた後、「肩や首が軽くなった」と感じたことがある方は多いのではないでしょうか。整骨院の現場でも、「凝りがほぐれた」「血の巡りが良くなった気がする」という感想をよく聞きます。
この「血流が良くなるから楽になる」という説明は、広く定着しています。ただ、実際に研究データを確認していくと、この説明だけでは説明しきれない部分があることが見えてきます。
そもそも「コリ」とは何か
「肩こり」「筋肉のコリ」という言葉は日常的に使われますが、実は医学的に厳密に定義された状態ではありません。筋肉の張り・重だるさ・押すと痛む感覚などをまとめて「コリ」と呼んでいる、というのが実情に近い状況です。
そのため、「コリが取れた」という感覚も、筋肉そのものの構造が変化したことを指しているとは限らず、痛みの感じ方や筋肉の緊張感が変化したことを指している場合が多いと考えられます。
「マッサージ=血流が良くなる」という説明はどこから来たのか
マッサージの効果を説明する際によく使われるのが、「圧をかけることで血流が促進され、老廃物が流れて筋肉がほぐれる」というロジックです。
このロジック自体は、機械的な圧力が筋肉のこわばりを和らげ、関節の動きやすさを改善するという仮説(生体力学的なメカニズム)として、スポーツ医学の分野でも古くから議論されてきました。
ただし、この仮説は「理屈として筋が通っている」ことと、「実際にヒトの体でそう起きている」ことは、必ずしもイコールではありません。
研究データで見る実際の血流への影響
ヒトを対象にした研究では、マッサージによる筋血流への影響について、意外な結果が繰り返し報告されています。
大腿四頭筋にマッサージを行い、ドップラー超音波で動脈・静脈の血流速度を直接測定した研究では、マッサージによって血流速度が安静時よりも有意に上昇することはなく、むしろ軽い筋収縮運動の方が血流を高めたと報告されています(Tiidus & Shoemaker, 1995)。
また、スポーツ医学分野での機序に関するレビューでも、複数の系統的レビューにおいてマッサージは血中乳酸のクリアランス・筋血流・筋温・筋活動がおがれにも明確な変化をもたらさなかったとまともられています。
一方で、動物を使った実験ではリンパの流れが促進されたとする報告もあり、「ヒトと動物で結果に差がある」「実験手法によって結果が変わる」という、まだ整理しきれていない領域であることも事実です。
では、痛みやこわばりが軽くなるのはなぜか
血流という単純な説明だけでは足りないとすると、「マッサージを受けて楽になった」という感覚は何によって起きているのでしょうか。
現時点の研究で候補として挙げられているのは、次のような複数の要因です。
- 痛みの感じ方そのものが変化する(痛覚閾値の変化)
- 自律神経のうち、リラックスに関わる副交感神経の活動が優位になる
- 気分の落ち込みや不安が軽減し、主観的な「つらさ」が和らぐ
- 筋肉を触られること自体による神経系の反応(反射的な変化)
緊張型頭痛の患者を対象に、トリガーポイントを狙ったマッサージとプラセボ(偽の施術)を比較したランダム化比較試験では、頭痛の頻度についてはマッサージ群とプラセボ群のあいだに有意な差が見られませんでした(Moraska et al., 2015, Clinical Journal of Pain)。一方で、痛みを感じ始める圧の強さ(痛覚閾値)は、マッサージ群でのみ改善が見られています。
つまり、「触られている」「ケアを受けている」という体験自体が持つ効果と、施術の物理的な作用による効果を、切り分けて考える必要があるということです。
首・肩の痛みに対するマッサージの効果-系統的レビューが示すこと
首や肩の痛みに対するマッサージ全体の効果についても、複数の系統的レビュー・メタ解析が行われています。
2014年に発表されたメタ解析(Cheng & Huang, Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine)では、15件のランダム化比較試験を統合した結果、何もしない場合と比べた即時的な痛みの軽減については中程度のエビデンスがあると結論づけられています。一方で、首の動かしにくさなど機能面の改善については、有効性を裏付けるだけの十分なエビデンスは得られなかったとしています。長期的な効果についても、判断できるだけのデータは不足していました。
さらに、2024年に更新されたコクラン・レビュー(Gross et al., Cochrane Database of Systematic Reviews)でも、首の痛みに対するマッサージの効果は依然としてはっきりしない、とまとめられています。研究ごとに質のばらつきが大きく、良質な研究が少ないことが、結論を出しにくくしている一因です。
トリガーポイントを狙った施術でも同様の結果が
肩や首の「コリ」の中でも、押すと痛みが響く「トリガーポイント」を対象とした施術についても研究があります。
肩の痛みに対するトリガーポイント療法の効果を検証した系統的レビュー・メタ解析(2024年発表)では、他の保存療法と比較して、痛みの軽減や機能改善の面で統計学的に明確な差は見られなかったと報告されています。エビデンスの質自体も「非常に低い〜低い」と評価されています。
これは「トリガーポイントを狙えば確実にコリが解消する」という理解にも、慎重さが必要であることを示しています。
まとめ:気持ちよさを否定するものではない
ここまで見てきたように、「マッサージ=血流を良くしてコリを取る」という説明は、少なくともヒトでの直接的な血流測定という点では、十分な裏付けが得られていません。
一方で、マッサージを受けた後に「楽になった」「軽くなった」と感じること自体は、多くの研究で報告されている実感でもあります。この感覚を否定する必要はありません。
ただし、その仕組みは単純な「血流改善」では説明しきれず、痛みの感じ方の変化やリラックス反応など、複数の要因が関わっている可能性が高い、というのが現時点での研究データからいえることです。
「コリがある=マッサージで血流を良くすれば解消する」と単純に結びつけるのではなく、こわばりの感じ方や生活習慣も含めて、体の状態を見ていくことが大切だと考えています(このあたりは個人差も大きい部分です)。
参考文献
- Gross AR, et al. (2024). Massage for neck pain. Cochrane Database of Systematic Reviews.
- Cheng YH, Huang GC. (2014). Efficacy of Massage Therapy on Pain and Dysfunction in Patients with Neck Pain: A Systematic Review and Meta-Analysis. Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine. DOI: 10.1155/2014/204360
- Moraska AF, et al. (2015). Myofascial trigger point-focused head and neck massage for recurrent tension-type headache: a randomized, placebo-controlled clinical trial. Clinical Journal of Pain, 31(2), 159-168. DOI: 10.1097/AJP.0000000000000091
- Tiidus PM, Shoemaker JK. (1995). Efleurage massage, muscle blood flow and long-term post-exercise strength recovery. International Journal of Sports Medicine.
- Best TM, et al. (2008). The Mechanisms of Massage and Effects on Performance, Muscle Recovery and Injury Prevention. Sports Medicine.
- 肩の痛みに対するトリガーポイント療法についての系統的レビュー・メタ解析(2024年発表、PubMed ID: 39189423)

