「ストレスが溜まると肩がこる」「緊張すると姿勢が悪くなる気がする」——多くの方が、こうした感覚を持っているのではないでしょうか。
今回は、この「ストレス」と「姿勢・筋緊張」の関係について、研究データをもとに整理していきます。
研究データで見る実際の関係
心理的なストレスと、首や肩の筋肉(僧帽筋)の緊張との関係は、実験的に検証されています。パソコン作業中の若い健康な女性を対象に、心理的なストレス負荷をかけた状態を人工的に作り出し、その反応を調べた研究があります。
この研究では、心理的ストレスによって僧帽筋の筋電活動が一時的に増加し、同時に姿勢が前かがみ(猫背方向)に変化したことが確認されています。ストレスは、感覚だけの問題ではなく、実際に筋肉の緊張や姿勢の変化として体に表れる可能性があるということです。
実は、過去の研究では結果が一貫していなかった
ここで興味深いのは、この関係が「昔から明確に証明されていたわけではない」という点です。62人の女性を対象に、暗算課題やストループ課題(色と文字が一致しない単語を読む心理的負荷課題)を使って精神的ストレスを与え、僧帽筋の筋電図を測定した研究(Lundberg et al., 1994)では、こう述べられています。
「精神的ストレスが筋肉の緊張を引き起こすことは一般に信じられているが、実験データはこれまで一貫した結果を示していなかった」と。その理由として、被験者数が少なかったこと、ストレスの種類が一種類しか使われていなかったこと、ストレスがかかっていることを裏付ける客観的な生理指標(血圧や唾液中のコルチゾールなど)が十分に測定されていなかったことが挙げられています。
この研究では、複数の心理的ストレス課題を用い、血圧・心拍数・尿中カテコールアミン・唾液コルチゾールといった客観的な指標も同時に測定した結果、精神的ストレスが僧帽筋の筋電活動を有意に増加させることが確認されました。測定方法を精緻にすることで、感覚的には知られていた関係が、データとしてはっきり裏付けられるようになったといえます。
オフィスワークでの実態調査
実験室での研究だけでなく、実際の職場環境での調査も行われています。ディスプレイを使った作業(VDU作業)をする男女57人を対象にした調査では、強い感情的ストレスを感じていると回答した人ほど、肩をすくめた姿勢で作業している頻度が高かった(オッズ比6.0)と報告されています。
ただし、この関連は、すでに首や肩に痛みがある人を統計的に調整すると、やや弱まりました(オッズ比4.5)。ストレスと姿勢・筋緊張の関係には、すでに体に生じている痛みや違和感も絡んでいる可能性があるということです。
すでに肩こりがある人は、反応のしかたが違うかもしれない
慢性的な首・肩の痛み(僧帽筋の筋痛症)を持つ女性18人と、痛みのない女性30人を比較した研究もあります。社会的なストレス負荷試験(人前でのスピーチや暗算といった、心理的プレッシャーのかかる課題)を行い、その間の筋活動や自律神経の反応を調べたところ、慢性的な肩こりを持つ人は、痛みのない人とストレスへの反応パターン自体が異なる可能性があることが示唆されています。
つまり、「ストレスがかかると誰でも同じように筋肉が緊張する」というわけではなく、もともとの体の状態によって、ストレスへの反応の出方が変わってくると考えられます。
逆方向の主張「姿勢を変えればストレスも変わる」はどうか
ここまでは「ストレス→筋緊張・姿勢の変化」という方向の話でした。一方で、逆方向、つまり「姿勢を変えることでストレスホルモンや自信が変化する」という主張も広く知られています。いわゆる「パワーポージング」と呼ばれる説です。
2010年に発表された研究(Carney, Cuddy, & Yap, Psychological Science)では、両手を広げるような堂々とした姿勢を1〜2分取るだけで、テストステロンの上昇・コルチゾールの低下・リスクを取る行動の増加が見られたと報告され、大きな話題になりました。
しかし、2015年に元の研究より大幅に多い200人規模で行われた追試では、テストステロン・コルチゾール・実際のリスク選好行動のいずれについても、元の研究のような効果は確認されませんでした(Ranehill et al., 2015, Psychological Science)。
さらに、提唱者の一人であるCarney氏自身も、後に「この効果(ホルモンや行動への影響)は実在しないと考えている」という趣旨の見解を公に示しています。
同じ「姿勢とストレス」というテーマでも、「ストレスが筋緊張や姿勢に影響する」という方向は複数の研究で裏付けられている一方、「姿勢を変えればホルモンや行動が変わる」という逆方向の主張は、大規模な追試で再現されず、提唱者自身も撤回しているという対照的な状況にあります。因果の向きを混同しないことが大切だといえます。
ストレスは、筋肉の血流にも影響する
ストレスが筋肉に及ぼす影響は、筋電図で見た「緊張」だけではありません。20人の健康な女性(年齢はさまざま)に、色と文字が一致しない単語を読む心理的ストレス課題(ストループ課題)を行いながら、肩に負荷をかけた筋肉の収縮を繰り返してもらい、僧帽筋の血流と筋電図を測定した実験があります(Larsson et al., 1995, European Journal of Applied Physiology)。
ストレス課題が加わると、心拍数が上がり、皮膚の血流は低下しました。一方で、負荷をかけている僧帽筋の筋肉内の血流は、約30%増えていました。研究者らは、ストレス時に分泌が増えるアドレナリンの作用で、皮膚の血管が収縮し、筋肉の血管は拡張した、と解釈しています。
興味深いのは、筋電図の振幅が約20%増え、それが、ストレス課題を外した後の筋収縮の間も続いていたことです。ストレスが加わったときの筋活動の高まりは、ストレスがなくなっても、すぐには元に戻らない可能性があることを示しています。研究者らは、繰り返しの静的な負荷と心理的ストレスが重なる仕事の場面への示唆があるとしています。
職場のストレス要因と、首・肩の障害
実験室での反応だけでなく、実際の職場でのストレス要因が、首や肩の不調につながるのかも研究されています。18件の前向き縦断研究を整理したシステマティックレビューがあります(Kraatz et al., 2013, International Archives of Occupational and Environmental Health)。
研究結果はばらつきが大きく、数値を統合することはできませんでした。しかし、仕事の要求度の高さ、仕事の裁量の低さ、周囲からの支援の乏しさ、仕事上の緊張(ジョブストレイン)が、首や肩の障害の発生に上乗せして関わっているという根拠は、全体として強いと評価されています。
ただし著者らは、心理的な要因が、それ単独で筋骨格系の障害の原因になると結論づけるには、慎重な解釈が必要だとしています。そのうえで、予防には、姿勢や作業環境といった物理的な要因と、心理社会的な要因の両方に取り組むことが重要だと述べています。肩こりや姿勢の問題を、「姿勢の矯正」だけで考えるのではなく、働き方や職場環境、休息の取り方も含めて見直す視点が大切といえます。
まとめ:ストレスは体に表れる、ただし一律ではない
ここまで見てきたように、心理的なストレスが首や肩の筋肉の緊張を高め、姿勢を前かがみにする方向に影響することは、複数の研究データで確認されています。「ストレスで肩がこる」という感覚は、根拠のないものではなさそうです。
一方で、すでに肩こりがある人はストレスへの反応パターン自体が異なる可能性があること、そして逆方向の「姿勢を変えればストレスが変わる」という主張には慎重な扱いが必要なことも、あわせて知っておきたいポイントです。
ストレスと体の状態は、一方通行の単純な関係ではなく、双方向に、また人によって違う形で関わり合っていると考えられます(ストレスの感じ方や体への表れ方には個人差があります)。
あわせて、ストレスがかかると、筋肉の血流や筋活動に変化が生じ、その高まりは課題の後も続く可能性があること、職場のストレス要因が首・肩の障害に上乗せして関わっている根拠が強いことも示されています。肩こりや姿勢の悩みは、姿勢の矯正だけでなく、働き方や休息の取り方も含めて見直すのが現実的です。

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参考文献
- Lundberg U, Kadefors R, Melin B, et al. (1994). Psychophysiological stress and EMG activity of the trapezius muscle. International Journal of Behavioral Medicine, 1(4), 354-370.
- Wahlström J, Hagberg M, Toomingas A, Wigaeus Tornqvist E. (2004). Perceived muscular tension, emotional stress, psychological demands and physical load during VDU work. Occupational and Environmental Medicine, 61(9), 754-761.
- Rosendal L, Larsson B, Kristiansen J, et al. Physiological responses to low-force work and psychosocial stress in women with chronic trapezius myalgia. BMC Musculoskeletal Disorders.
- Carney DR, Cuddy AJC, Yap AJ. (2010). Power posing: Brief nonverbal displays affect neuroendocrine levels and risk tolerance. Psychological Science, 21(10), 1363-1368.
- Ranehill E, Dreber A, Johannesson M, et al. (2015). Assessing the robustness of power posing: No effect on hormones and risk tolerance in a large sample of men and women. Psychological Science, 26(5), 653-656.
- Larsson SE, Larsson R, Zhang Q, Cai H, Oberg PA. (1995). Effects of psychophysiological stress on trapezius muscles blood flow and electromyography during static load. Eur J Appl Physiol Occup Physiol, 71(6), 493-498. DOI: 10.1007/BF00238550
- Kraatz S, Lang J, Kraus T, Münster E, Ochsmann E. (2013). The incremental effect of psychosocial workplace factors on the development of neck and shoulder disorders: a systematic review of longitudinal studies. Int Arch Occup Environ Health, 86(4), 375-395. DOI: 10.1007/s00420-013-0848-y

