冬場に限らず、「腰やお腹を温めると楽になる」という感覚は多くの人が持っています。カイロ、電気毛布、温活グッズなど、温めることを目的にした商品市場も年々広がっています。
この「温める=痛みが和らぐ」という感覚は、実際どこまで研究データで裏付けられているのでしょうか。今回は腰痛を中心とした研究をもとに整理していきます。
温熱療法にはどんな種類があるか
一口に「温める」といっても、方法はさまざまです。ホットパックや電気毛布、使い捨てカイロ、入浴、蒸しタオルなど、いずれも体表面から熱を加える「表在性温熱療法」に分類されます。
研究の多くも、こうした表在性の温熱を対象にしたものです。今回紹介するデータも、基本的にはこのタイプの温熱療法についての結果になります。
研究データで見る実際の効果
腰痛に対する温熱・冷却療法の効果は、コクラン・システマティックレビュー(French et al., 2006, Spine)で詳しく検証されています。9件のランダム化比較試験・1,117人分のデータを統合した結果です。
この統合解析では、発症から3ヶ月未満の急性・亜急性の腰痛に対して、温熱パック療法が痛みや動作のしにくさを短期的に軽減するという中程度のエビデンスがあると結論づけられています。
また、2024年に発表された別のメタ解析(World Physiotherapy)でも、14件・1,300人のデータのうち、貼るタイプの温熱パッド(ヒートラップ)を使った2件・258人の統合結果で、5日後の痛み軽減に有意差が確認されています。
「温めると楽になる」という感覚は、少なくとも急性期の腰痛については、研究データの裏付けがあるといえそうです。
ただし、効果は「小さく」「短期的」
ここで注意しておきたいのが、エビデンスの中身です。コクラン・レビューでは、温熱療法の効果は小さく、効果が確認されているのも短期間に限られると明記されています。
2024年のメタ解析でも、報告されていたのは即時的な効果か、長くても2週間以内の短期的な効果のみでした。「温めれば根本的に治る」というような理解は、データの範囲を超えた期待だといえます。
また、温熱療法に運動を組み合わせると、温熱単独よりもさらに効果が上乗せされることも、同じレビューの中で報告されています。温めること単体に頼るのではなく、体を動かすことと合わせて考えることが大切なようです。
なぜ温めると痛みが和らぐのか
温熱による鎮痛効果の仕組みについては、いくつかのメカニズムが想定されています。単一の理由で説明できるものではなく、複数の要因が組み合わさっていると考えられています。
- 皮膚の温受容器が刺激されることで、痛み信号の伝達が抑制される(ゲートコントロール理論)
- 血管が拡張し、局所の血流が増加する
- 筋肉の過緊張(スパズム)が緩和される
1965年にMelzack と Wallが提唱した「ゲートコントロール理論」は、皮膚の温かさや圧を感じる神経の働きが、痛みを伝える神経信号を脊髄のレベルで抑制する、という考え方です。マッサージで痛みが和らぐ仕組みの説明としても使われることがあります。
ただし、現在では痛みは脊髄だけでなく、脳を含む中枢神経系での情報処理や心理・認知的要因など、多くの要素が関係すると考えられています。
なお、以前の記事でマッサージによる血流変化を取り上げた際は、ヒトでの直接測定では血流促進の裏付けが弱いという結果を紹介しました。温熱による血流促進(血管拡張)については、複数の研究で報告されており、この点はマッサージとは異なる部分です。
ただし、痛みの感じ方には神経系の働きや心理的な要因も関わるため、「血流が良くなったから痛みが消えた」という単純な一つの理由だけで説明しきれるものではありません。
慢性的な痛みへの効果、冷却との比較はまだ分かっていない
ここまで紹介したデータは、いずれも急性・亜急性の腰痛を対象にしたものです。一方で、3ヶ月以上続く慢性的な腰痛に対する温熱療法の効果は、質の高い研究が少なく、判断できるだけのエビデンスがないとされています。
肩こりや腰痛が慢性化している人ほど、温活グッズを日常的に使う傾向があるかもしれませんが、その効果については研究データの裏付けがまだ十分ではないという状態です。
また、「炎症がある時期は冷やす、慢性期は温める」という使い分けは臨床の現場でよく言われますが、コクラン・レビューでは冷却療法(アイシング)の効果を裏付けるエビデンス自体が不十分とされており、温めることと冷やすことのどちらが優れているかについても、直接比較した質の高い研究による決着はついていません。
まとめ:温めることを過信しすぎない
ここまで見てきたように、急性・亜急性の腰痛については、温熱療法が短期的な痛みの軽減に役立つという中程度のエビデンスがあります。「温めると楽になる」という感覚は、根拠のないものではなさそうです。
一方で、効果は小さく短期的なものにとどまること、慢性的な痛みへの効果はまだ研究で確かめられていないことも、合わせて知っておきたいポイントです。
温めることだけに頼るのではなく、運動など他のアプローチと組み合わせて考えることが大切だと考えています(痛みの感じ方や効果の出方には個人差もあります)。
参考文献
- French SD, Cameron M, Walker BF, Reggars JW, Esterman AJ. (2006). A Cochrane review of superficial heat or cold for low back pain. Spine, 31(9), 998-1006. DOI: 10.1097/01.brs.0000214881.10814.64
- Effectiveness of superficial heat for low back pain: A systematic review and meta-analysis. (2024). World Physiotherapy Congress Proceeding.
- Nadler SF, Steiner DJ, Erasala GN, et al. (2002). Continuous low-level heat wrap therapy provides more efficacy than Ibuprofen and acetaminophen for acute low back pain. Spine, 27(10), 1012-1017.
- Melzack R, Wall PD. (1965). Pain mechanisms: a new theory. Science, 150(3699), 971-979.(ゲートコントロール理論の原典)

