「年を取ると眠りが浅くなる」——これは広く知られた感覚で、実際に「昔は朝までぐっすりだったのに、最近はすぐ目が覚める」という声もよく聞きます。
今回は、加齢に伴う睡眠の変化について、実際の研究データがどこまで、そしてどのように裏付けているのかを整理していきます。
研究データで見る実際の変化
加齢による睡眠の変化を最も長い期間で追跡した研究の一つに、約40年にわたる縦断研究があります(Geisler et al., 2025, Journal of Sleep Research)。40年以上前に一度、睡眠を検査で記録した人たちを再び集め、同じ方法で睡眠を測定し直したという、非常に珍しい研究です。
この研究では、年齢を重ねた参加者全員で、深い眠り(徐波睡眠)とレム睡眠の量が減少し、浅い眠り(ステージ1)と覚醒している時間が増加していたと報告されています。「年を取ると眠りが浅くなる」という感覚は、この点においては裏付けられているといえます。
ただし、個人の変化のパターンは予測できない
ここで興味深いのが、この研究のもう一つの結果です。個々の睡眠の指標(徐波睡眠の量など)を一つずつ見ると、若い頃の値から年を取ってからの値を予測できるような、個人内での一貫した関連性は見られなかったと報告されています。
つまり、「若い頃に眠りが深かった人は、年を取っても相対的に深い眠りを保ちやすい」といった単純な図式は成り立たないということです。ただし、複数の睡眠指標(睡眠段階の割合や総睡眠時間など7つの指標)を組み合わせたパターンとして見た場合には、年齢との関連が確認されたとも報告されています。単一の指標では説明しきれない複雑さがあるようです。
測定基準によって、結論が変わることもある
さらに注意しておきたいのが、「深い眠り(徐波睡眠)が加齢とともに減る」という、これまで広く支持されてきた知見についてです。先ほどの40年追跡研究の中では、米国睡眠医学会(AASM)の判定基準を用いた別の包括的なメタ解析では、徐波睡眠の減少という結果が裏付けられなかったことが紹介されています。
同じ「徐波睡眠」という指標を扱っていても、どの判定基準・測定方法を使うかによって結果が変わりうるということです。「深い眠りは加齢とともに必ず減る」と一律に断定するのは、慎重であるべきだといえます。
「みんな同じように」ではなく、個人差が大きい
この個人差の大きさは、別の縦断研究でも示されています。2,202人を対象に、5年間隔で2回の睡眠検査を行った研究(Gao & Scullin, 2023, Aging Brain)では、「加齢とともに睡眠が直線的に悪化していく」という考え方とは対照的に、個人ごとの変化の度合いにはかなりのばらつきがあったと報告されています。
この研究では、脳波の細かい周波数成分(デルタ波・シグマ波など)の変化を分析しており、5年間でこれらの成分が変化した人もいれば、あまり変化しなかった人もいたことが示されています。
「量」だけでなく「質」を作る微細な変化にも注目
211人の女性を対象にした研究(Schwarz et al., 2017, Journal of Sleep Research)では、睡眠段階の割合といった大きな枠組み(マクロ構造)よりも、睡眠紡錘波やK複合波といった、脳波の細かい活動パターン(ミクロ構造)の方が、加齢の影響をより強く受けている可能性が示されています。
これは、「深い眠りがどれだけの時間あるか」という量的な指標だけでなく、その中身である脳波活動の質にも目を向ける必要があることを示唆しています。
「何が・いつから」変わるのか:年齢別の整理
加齢による睡眠の変化を、年代を広くまたいで整理したメタ解析があります。5〜102歳の3,577人(65の研究)を対象に、睡眠ポリグラフ検査などで客観的に測られた睡眠のデータを統合したものです(Ohayon et al., 2004, Sleep)。
成人では、年齢とともに、総睡眠時間・睡眠効率・徐波睡眠(深い眠り)の割合・レム睡眠の割合が有意に減少し、寝つくまでの時間・浅い眠りの割合・中途覚醒が有意に増加していました。「睡眠効率」とは、布団に入っている時間のうち、実際に眠っている時間の割合のことです。
興味深いのは、60歳を過ぎてからも有意に低下し続けたのは「睡眠効率」だけだった、という点です。ほかの指標は、60歳以降は年齢による有意な変化が見られなくなっています。高齢になって、あらゆる指標が一斉に悪化し続けるわけではない、ということです。
もう一つ重要なのが、対象者の選び方による影響です。精神疾患・身体の病気・薬やアルコールの使用・睡眠時無呼吸などで対象者を選別したかどうかによって、年齢との関連の大きさが大きく変わり、関連が小さく見えたり、見えにくくなったりすることがあったと報告されています。同じ「加齢による睡眠の変化」を調べていても、誰を対象にしたかで見え方が変わるということです。
私たちが「年のせい」と感じている睡眠の変化の中に、病気や薬、睡眠障害の影響が混ざっている可能性も、頭に置いておきたい点です。
なぜ深い眠りが減るのか:脳の変化との関係
深い眠り(徐波睡眠)が減る背景として、脳の構造の変化が関わっている可能性を示した研究があります(Mander et al., 2013, Nature Neuroscience)。高齢者を対象にした研究で、脳の内側前頭前野の灰白質の萎縮が大きい人ほど、深いノンレム睡眠のときに出る徐波(ゆっくりした脳波)の活動が少ないことが示されました。
さらに、この徐波活動の少なさが、一晩眠ったあとの記憶の定着の悪さと統計的に関連していました。研究チームは、「加齢による脳の変化 → 深い眠りの減少 → 記憶の定着の低下」という流れのモデルを提案しています。
ただし、これは因果関係を直接確かめたものではなく、変数どうしの関連をモデル化した研究です。「眠りが浅くなると必ず記憶力が落ちる」という意味ではなく、加齢にともなう脳の変化・睡眠・記憶が互いに関わっている可能性を示した研究、と受け止めるのが適切です。
まとめ:一律の変化ではなく、個人差の大きい現象
ここまで見てきたように、加齢に伴って睡眠の構造が変化すること自体は、複数の研究で確認されています。深い眠りやレム睡眠が減り、浅い眠りや覚醒が増えるという傾向は、大まかには裏付けられているといえます。
ただし、その変化の現れ方には大きな個人差があり、測定方法によって結論が変わることもあるという点は、あわせて知っておきたいポイントです。「年を取れば誰でも同じように眠りが浅くなる」と単純に捉えるのではなく、個人差のある現象として理解しておくのが適切だと考えています。

あわせて、60歳以降も有意に低下し続けるのは主に「睡眠効率」であること、対象者の選び方によって年齢との関連の見え方が変わることも、客観的なデータから示されています。眠りの変化を「年のせい」と一括りにする前に、睡眠障害や持病・薬の影響がないかを確認する視点も大切です。
参考文献
- Geisler P, Wehrle R, Yassouridis A, Ultsch A, Wetter TC, Schulz H. (2025). Sleep and Aging. A Polysomnographic Follow-Up Study, Some 40 Years Later. Journal of Sleep Research. DOI: 10.1111/jsr.70039
- Gao C, Scullin MK. (2023). Longitudinal trajectories of spectral power during sleep in middle-aged and older adults. Aging Brain, 3, 100058. DOI: 10.1016/j.nbas.2022.100058
- Schwarz JFA, Åkerstedt T, Lindberg E, Gruber G, Fischer H, Theorell-Haglöw J. (2017). Age affects sleep microstructure more than sleep macrostructure. Journal of Sleep Research, 26(3), 277-287. DOI: 10.1111/jsr.12478
- Ohayon MM, Carskadon MA, Guilleminault C, Vitiello MV. (2004). Meta-analysis of quantitative sleep parameters from childhood to old age in healthy individuals: developing normative sleep values across the human lifespan. Sleep, 27(7), 1255-1273. DOI: 10.1093/sleep/27.7.1255
- Mander BA, Rao V, Lu B, Saletin JM, Lindquist JR, Ancoli-Israel S, Jagust W, Walker MP. (2013). Prefrontal atrophy, disrupted NREM slow waves and impaired hippocampal-dependent memory in aging. Nat Neurosci, 16(3), 357-364. DOI: 10.1038/nn.3324

