肩甲骨はがしは意味ない?効果と限界

運営者:りっぽうたい(柔道整復師・介護福祉士/東京で整骨院を開業)|プロフィール

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整体やSNSでよく見かける「肩甲骨はがし」。やってもらうと楽になった気がする一方で、「そもそも意味がない」という声も聞こえてきます。

今回は、肩甲骨まわりへのアプローチについて、研究データでどこまで確認されているのかを整理します。

「肩甲骨をはがす」とは何をしているのか

「肩甲骨はがし」は医学用語ではなく、肩甲骨まわりの筋肉をほぐしたり、大きく動かしたりする手技や体操を指す通称です。まず、前提になる2つの言葉を確認しておきます。

肩甲胸郭関節とは

肩甲骨と、背中側の肋骨(胸郭)のあいだにある「関節」です。靭帯で骨同士がつながった普通の関節とは違い、筋肉に支えられて、肋骨の上を滑るように動く機能的な関節です。

そのため、「肩甲骨が肋骨にくっついている(癒着している)のを、はがす」というイメージ通りの状態が起きているとは限りません。今回参照した研究の中に、肩甲骨の癒着を確認したものはありませんでした。

筋膜リリースとは

筋膜(筋肉を包む結合組織)の硬さや癒着をゆるめると説明される、手技の総称です。肩甲骨はがしのマッサージ版は、この筋膜リリースに近い考え方です。

筋膜リリースの研究データ

2023年のメタ解析(Guo et al., Clinical Rehabilitation)は、慢性の首の痛みへの筋膜リリースを調べた13件の研究(601人)をまとめています。

その結果、僧帽筋と後頭下筋の「圧痛閾値」は、対照より有意に改善しました。一方、痛みそのものの点数や首の動き、機能障害の指標には有意な差がありませんでした。有害事象は報告されておらず、証拠の確実性は「低〜中」とされています。

圧痛閾値とは

筋肉を押したとき、「痛い」と感じ始める圧の強さです。値が高いほど、押されても痛みを感じにくい状態を指します。

別のメタ解析(Overmann et al., 2024, Physiotherapy)では、10件のRCT(549人)で、筋膜リリースが他の治療より痛みを下げる傾向(p=0.03)が示されました。著者らは効果を「modest(控えめ)」と表現しており、圧痛閾値には有意な効果がありませんでした。2つのメタ解析で結果が食い違っていることからも、評価はまだ定まっていないといえます。

慢性の筋骨格系の痛み全般を調べた2018年のレビュー(Laimi et al., Clinical Rehabilitation)では、8件のRCTのうち、腰痛と線維筋痛症の試験で効果の大きさが「臨床的に意味のある最小の差」に届かず、「現時点のエビデンスは筋膜リリースを支持するには不十分」と結論されています。なお、このレビューには首の痛みの試験は含まれていません。

肩甲骨を「動かす・鍛える」ほうはどうか

一方、肩甲骨まわりの筋肉を「使う」運動では、前向きなデータが出ています。

2014年のRCT(Andersen et al., Journal of Occupational Rehabilitation)は、慢性的な首肩の痛みがある大学職員47人(平均44歳、女性が約8割)が対象です。週3回・1回20分を10週間、肩甲骨の安定に働く筋肉を鍛える運動を行ったグループは、首肩の痛みが対照群より2.0点(0〜9点)大きく低下しました。

下部僧帽筋・前鋸筋とは

どちらも肩甲骨を安定させて、正しい位置に保つ筋肉です。下部僧帽筋は背中の中ほどから下にかけて、前鋸筋は肩甲骨の内側から脇腹に向かって、肋骨の上に広がっています。この研究では、肩こりで固くなりがちな上部僧帽筋にはあまり力が入らないように、これらの筋肉を狙って鍛える運動(プレスアップ、プッシュアッププラス)が使われました。

2024年のメタ解析(Chen et al., BMC Musculoskeletal Disorders)は、肩甲骨に対する治療を調べた8件のRCT(313人)をまとめています。慢性の首の痛みは、対照より有意に改善しました(エビデンスは中程度)。また、頭が前に出た姿勢(頭部前方位)の改善も示唆されています。

ただし、首の機能障害の指標(NDIなど)と圧痛閾値は改善しておらず、研究間のばらつきも大きいため、効果の大きさは慎重に見る必要があります。

「意味ない」のか?

ここまでをまとめると、「ほぐすだけ」の肩甲骨はがしは、痛みそのものへの効果の根拠がまだ弱いというのが実情です。一方で、肩甲骨まわりを「動かす・鍛える」アプローチには、痛みの軽減を示すデータがあります。

筋肉を触られて「気持ちいい」と感じること自体は事実でしょう。ただ、それが姿勢や肩こりの根本的な改善につながるかは、別の問題です。マッサージは「補助」と位置づけ、運動と組み合わせるのが現実的な使い方だと考えられます。

肩甲骨はがし、「ほぐすだけ」より「動かす・鍛える」に手がかり
肩甲骨はがし、「ほぐすだけ」より「動かす・鍛える」に手がかり

日常でできること

  • 肩甲骨を「はがす」ことにこだわらず、肩を回す・胸を開くなど、日中に肩甲骨を動かす回数を増やす
  • マッサージは気持ちよい範囲にとどめ、「痛いほど強く」する必要はない
  • 肩甲骨を安定させる筋力トレーニングを取り入れたい場合は、痛みの出ない範囲で、専門家のフォーム確認を受ける
  • 腕のしびれ、力が入らない、安静時や夜間の強い痛みがある場合は、自己流で続けず医療機関に相談する

施術現場から:肩甲骨が気になる方に伝えていること

ここからは、整骨院で日々の施術に携わる柔道整復師としての、私自身の経験にもとづく内容です。研究データとは別の、現場での実感としてお読みください。

肩甲骨が気になる方では、まず、立っているときの肩甲骨の位置を確認しています。

仕事の合間には、両腕を頭の上に伸ばし(手のひらは内側)、手のひらを外に向けながら肘を90度に曲げる動きを行ってもらっています。

自己流のケアで来院される方に多いのは、フォームローラーに体重をかけすぎて、筋線維を傷めてしまっているケースです。

まとめ

「肩甲骨が肋骨に癒着している」という前提を裏付ける研究は、今回参照した範囲には見当たりませんでした。筋膜リリースは、圧痛閾値を高める可能性はあるものの、痛みへの効果は研究ごとに結果が分かれています。それに対して、肩甲骨まわりの筋肉を鍛える運動では、痛みの軽減を示すデータがあります。「ほぐす」だけで終わらせず、「動かす・鍛える」へつなげるのが、現時点の研究から見える現実的な向き合い方です。

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参考文献

  • Guo Y, Lv X, Zhou Y, Li Z, She H, Bai L, Bao J. Myofascial release for the treatment of pain and dysfunction in patients with chronic mechanical neck pain: Systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials. Clin Rehabil. 2023;37(4):478-493. DOI: 10.1177/02692155221136108
  • Overmann L, Schleip R, Anheyer D, Michalak J. Effectiveness of myofascial release for adults with chronic neck pain: a meta-analysis. Physiotherapy. 2024;123:56-68. DOI: 10.1016/j.physio.2023.12.002
  • Laimi K, Mäkilä A, Bärlund E, et al. Effectiveness of myofascial release in treatment of chronic musculoskeletal pain: a systematic review. Clin Rehabil. 2018;32(4):440-450. DOI: 10.1177/0269215517732820
  • Andersen CH, Andersen LL, Zebis MK, Sjøgaard G. Effect of Scapular Function Training on Chronic Pain in the Neck/Shoulder Region: A Randomized Controlled Trial. J Occup Rehabil. 2014;24(2):316-324. DOI: 10.1007/s10926-013-9441-1
  • Chen Y, Yang C, Nie K, Huang J, Qu Y, Wang T. Effects of scapular treatment on chronic neck pain: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. BMC Musculoskelet Disord. 2024;25:252. DOI: 10.1186/s12891-024-07220-8

この記事を書いた人

りっぽうたい|柔道整復師・介護福祉士。東京で整骨院を開業し、姿勢・骨格の悩みを抱える多くの女性の施術に携わっています。身体の仕組みから見た姿勢・骨格・コンディショニングの情報を発信しています。プロフィールを見る

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