「朝起きると顎がだるい」「ふと気づくと歯を噛みしめている」——食いしばりに悩み、咬筋(頬の奥からエラにかけての筋肉)をマッサージでほぐしている方も多いのではないでしょうか。
一方で、「ほぐしすぎるとかえって逆効果」という声も耳にします。今回は、咬筋の特徴と食いしばりの研究データから、マッサージについて言えること・まだ分かっていないことを整理します。
食いしばりは「寝ているとき」だけではない
食いしばり(ブラキシズム)は、国際的な合意(Lobbezoo et al., 2018, Journal of Oral Rehabilitation)では、歯の食いしばりや歯ぎしり、あごを固めたり突き出したりする動きを伴う、咀嚼筋(噛む筋肉)の活動と整理されています。
この合意では、起こるタイミングによって2つに分けられています。
睡眠時ブラキシズムとは
寝ている間に起こる咀嚼筋の活動です。リズミカルな歯ぎしりのほか、リズムのない噛みしめも含まれます。
覚醒時ブラキシズムとは
起きている間に、上下の歯が繰り返し、あるいは持続的に接触したり、あごを固めたりする状態です。力いっぱい噛みしめるだけでなく、軽く歯が触れ続けているだけのケースも含まれます。
2026年の系統的レビュー(Graham et al., BMC Oral Health)では、覚醒時ブラキシズムは一般の人の約4人に1人が報告するとされています。顎関節症などがある人では40〜50%に達する可能性もあり、評価方法によって数字は大きく変わるとも指摘されています。
今回扱う「マッサージ」は、あくまで咬筋のこわばりや痛みへのケアの話です。食いしばりの癖そのものを減らす方法とは、分けて考える必要があります。
咬筋は「センサーが豊富な筋肉」?
咬筋は、奥歯でものを噛む強い力を生み出す筋肉です。強い力を出すだけでなく、食べ物の硬さに応じて力加減を細かく調整する必要があり、そのための「センサー」を筋肉の中にもっています。
筋紡錘とは
筋肉の中に埋め込まれた、長さの変化を感じ取るセンサーです。筋肉が急に引き伸ばされると信号を送り、反射的に筋肉を縮めて元の長さを保とうとする「伸張反射」に関わります。痛みを感じる受容器とは別のものです。
3〜7歳の子どもの咬筋と上腕二頭筋を比べた研究(Österlund et al., 2011, Anatomical Record)では、咬筋の筋紡錘は例外的に大きく、とくに深層で密度が高く、構造も複雑だったと報告されています。大人の咬筋のこれまでのデータとも似た構成で、「噛む」ための細かな力の調整に合わせた作りだと解釈されています。
ここで注意したいのは、この研究は子どもの筋肉を組織学的に調べたもので、「マッサージで刺激すると筋緊張が上がる」ことを調べたものではない点です。
「強くほぐすと逆効果」を支える研究はあるのか
結論から言うと、咬筋のマッサージを強くするほど筋緊張が高まる、と直接示した研究は、今回調べた範囲では見つかりませんでした。ただし、近い領域の研究から、考え方の手がかりは得られます。
① 敏感になった咬筋に負荷をかけると、痛みが増すことがある
1994年の研究(Dao et al., Journal of Dental Research)では、咀嚼筋の痛みがある患者61人と、痛みのない人20人に、ワックスを3分間噛んでもらい、前後の痛みを比べました。痛みのない人では、噛む前も後も痛みは出ませんでした。
一方、患者では約半数で痛みが増加(平均で約2倍)し、約30%ではむしろ痛みが減っていました。痛みのある咬筋に持続的な負荷をかけると、悪化する人が少なくないことがうかがえます。
② 健康な咬筋は、短時間の負荷には強い
1989年の研究(Clark et al., Journal of Dental Research)では、健康な男性10人が、限界まで噛みしめる動作を80分間に6回行いました。その後7日間にわたって測定しても、痛みや圧痛の閾値、口の開き具合に有意な変化はありませんでした。
症状のない咬筋は、短期的な負荷ではあまり悪化しにくいようです。つまり、「負荷に対する反応は、筋肉の状態によって違う」と考えるのが自然です。
③ 手技療法の効果は「小さい」。強さを比べた結果は見当たらない
2023年のシステマティックレビュー(Vieira et al., Life)は、顎関節症に対する手技療法を調べた20件のランダム化比較試験をまとめています。他の治療に手技療法を上乗せすると、短期的な痛み(0〜10点)が減り、口の開きも約2.5mm広がっていました。
ただし、効果の大きさは小さく、臨床的に重要といえないかもしれないとも述べられています。施術者の盲検化はすべての試験でできていませんでした。また、含まれた試験では有害事象は報告されていませんが、圧の強さによる違いを比べた結果は、確認できた範囲では見当たりませんでした。
以上を合わせると、「痛みや張りのある咬筋に、強い圧を長く加える」ことは慎重にしたほうがよさそうです。ただしこれは、筋紡錘の性質や、敏感な筋への負荷のデータからの推論であり、「逆効果になる」と断言できる根拠があるわけではありません。
ほぐす前に知っておきたい、咬筋の「硬さ」の意味
2026年のメタ解析(Naralan & Hatipoğlu, Oral Radiology)では、超音波エラストグラフィ(組織の硬さを測る検査)で測った咬筋の硬さが、ブラキシズムや筋筋膜性の顎関節症の人で、健康な人より高いことが示されました(7研究、患者190人・対照202人)。
ただし、研究間のばらつきが大きく、証拠の確実性は「非常に低い」と評価されています。硬い咬筋が食いしばりの原因なのか結果なのかも分かりません。硬さをゆるめれば食いしばりが治る、とまでは言えないということです。
マッサージより先に:日中の「歯の接触」に気づく
覚醒時ブラキシズムの管理を調べた2026年のレビュー(Graham et al., BMC Oral Health)は、9研究・165人を検討しています。バイオフィードバック、リマインダー(通知で気づかせる方法)、教育とセルフマネジメントなどに前向きな結果が報告されました。
リマインダーとは
スマホの通知や付箋などで、「いま歯が当たっていないか」に気づくきっかけをつくる方法です。レビューで紹介された試験では、メールによる通知が、付箋や何もしない場合より、日中の歯の接触を減らしたと報告されています。
ただし、研究の多くはバイアスのリスクが中〜高で、人数も少なく、確実性は「低い〜非常に低い」と評価されています。また、マッサージ単独の効果を評価した研究は含まれていませんでした。

日常でできること
- 日中、ふと上下の歯が当たっていないかに気づく習慣をつくる(付箋・スマホの通知など)
- 咬筋をほぐすなら、痛くない強さで短時間にとどめる(研究で確かめられた「最適な強さ」はないため、慎重側の目安)
- 硬いものやガムを長時間噛み続けるのは避ける(痛みのある人は負荷で悪化しやすいため)
- 朝の強い痛み、口が開けにくい、あごの音や引っかかりが続く場合は、歯科・口腔外科に相談する
- 歯のすり減り・欠け・しみる症状がある場合も、歯科で状態を確認してもらう
施術現場から:食いしばりの方で見ているところ
ここからは、整骨院で日々の施術に携わる柔道整復師としての、私自身の経験にもとづく内容です。研究データとは別の、現場での実感としてお読みください。
食いしばりのある方では、乳様突起(耳の後ろの骨の出っ張り)まわりの筋肉が硬くなりやすいと感じています。
日中は、気づいたときに、舌を上あごにつけるようにしてもらっています。
マウスピースを作ったことがなく、歯の状態が心配な方には、歯科への相談を勧めています。
まとめ
咬筋は筋紡錘が大きく発達した、感覚の鋭い筋肉です。ただし、強いマッサージで筋緊張が高まるかどうかを直接調べた研究は、今回の調査では見つかりませんでした。敏感な咬筋に持続的な負荷をかけると痛みが増える人がいること、手技療法の効果は小さいことを踏まえると、「強く・長く」ほぐすより「痛くない強さで短く」が無難といえそうです。食いしばりそのものに対しては、日中の歯の接触に気づく工夫のほうが、研究では前向きな結果が報告されています。
関連記事
参考文献
- Lobbezoo F, Ahlberg J, Raphael KG, et al. International consensus on the assessment of bruxism: Report of a work in progress. J Oral Rehabil. 2018;45(11):837-844. DOI: 10.1111/joor.12663
- Österlund C, Liu JX, Thornell LE, Eriksson PO. Muscle spindle composition and distribution in human young masseter and biceps brachii muscles reveal early growth and maturation. Anat Rec. 2011;294(4):683-693. DOI: 10.1002/ar.21347
- Dao TT, Lund JP, Lavigne GJ. Pain responses to experimental chewing in myofascial pain patients. J Dent Res. 1994;73(6):1163-1167. DOI: 10.1177/00220345940730060601
- Clark GT, Jow RW, Lee JJ. Jaw pain and stiffness levels after repeated maximum voluntary clenching. J Dent Res. 1989;68(1):69-71. DOI: 10.1177/00220345890680011101
- Vieira LS, Pestana PRM, Miranda JP, et al. The Efficacy of Manual Therapy Approaches on Pain, Maximum Mouth Opening and Disability in Temporomandibular Disorders: A Systematic Review of Randomised Controlled Trials. Life (Basel). 2023;13(2):292. DOI: 10.3390/life13020292
- Naralan ME, Hatipoğlu Ö. Masseter muscle stiffness in bruxism and myofascial pain-related temporomandibular disorders: a systematic review and meta-analysis of quantitative ultrasound elastography studies. Oral Radiol. 2026;42(3):754-764. DOI: 10.1007/s11282-026-00914-w
- Graham DA, Lövgren A, Häggman-Henrikson B, Peck CC, Manfredini D, Saracutu OI. Management of awake bruxism: a systematic review. BMC Oral Health. 2026;26:559. DOI: 10.1186/s12903-026-07856-z
