「冷え性」という言葉は、日常会話でごく当たり前に使われています。手足が冷たい、布団に入ってもなかなか温まらない、そんな経験がある方も多いのではないでしょうか。
ただ、この「冷え性」という状態が、医学的にどう位置づけられているかを知っている方は少ないかもしれません。今回は、冷え性と血流・自律神経の関係について、研究データをもとに整理していきます。
そもそも「冷え性」とは何か
「冷え性」は、実は統一された医学的な診断名ではありません。手足の先など体の一部が、周囲の人が寒さを感じない環境でも冷たく感じられ、それがつらいと自覚される状態を指す、社会通念的な呼び方に近いものです。
そのため、「何度以下なら冷え性」というような明確な診断基準は存在せず、あくまで本人の自覚症状がベースになっている概念だといえます。
「体が冷たい人ほど冷え性」とは限らない
「冷え性の人は、実際に手足の皮膚温が低いはずだ」と考える方は多いと思います。しかし、この点については意外な報告があります。
身長・体重・BMIといった身体的な特徴と、「冷えを自覚するかどうか」との間には、明確な関連性が認められていません。さらに、皮膚温が実際に低いことが、そのまま冷えの自覚の強さに直結するわけでもないことが指摘されています(楠, 2014, 安田女子大学紀要)。
つまり、「冷たいと感じている=実際に体温が下がっている」という単純な図式では説明しきれない部分があるということです。冷えの自覚には、体温そのもの以外の要因も関わっていると考えられます。
自律神経の乱れが関わっている可能性
では、冷えの自覚には何が関わっているのでしょうか。近年の研究で注目されているのが、自律神経の働きです。
健常な成人男女を対象に、鼓膜温(体の中心に近い温度)と足の親指の皮膚温の差が6℃以上ある人を「冷え症群」として、自律神経の活動を比較した研究があります(福岡ほか, 2022, 日本臨床生理学会雑誌)。
この研究では、男性の冷え症群では交感神経活動の指標が高く、女性の冷え症群では副交感神経活動の指標が低いという結果が示されました。冷えの背景にある自律神経の乱れ方が、男女で異なるパターンを示している可能性があるということです。
また、閉経前の女性を対象にした別の研究では、冷え性(Hiesho)とされる群で自律神経の過活動と、血管の内側の壁(血管内皮)の機能低下が同時に見られたと報告されています(Kono et al., 2021, Tohoku Journal of Experimental Medicine)。血管内皮の機能は、血管がどれだけしなやかに広がったり狭まったりできるかに関わるもので、末梢の血流をコントロールする重要な要素です。
筋肉量との関連も指摘されている
先ほどの福岡ほか(2022)の研究では、筋肉総量・骨格筋量についても比較が行われています。統計的に明確な差ではなかったものの、男女ともに冷え症群の方が、筋肉量の平均値が低い傾向にあったと報告されています。
筋肉は体内で熱をつくる主な組織のひとつです。筋肉量が少ないと、体全体の熱産生量が少なくなり、末梢まで温かい血液を十分に巡らせにくくなる可能性があります。ただし、この研究では統計的な有意差はついていないため、あくまで「傾向」として捉えておくのが適切です。
対処法として研究データがあるもの:足浴
冷え性の対処法として広く知られているものの一つに「足浴(足湯)」があります。この効果についても、自律神経の変化という切り口から検証した研究があります。
冷え性の若い女性を対象に、お湯につかる足浴と、蒸気を当てる足浴を比較した研究では、お湯につかる足浴の方が、副交感神経活動を高め、足先の皮膚温と血流を効果的に改善したと報告されています(Kono et al., 2025, Cureus)。
これは、単に足を外から温めるだけでなく、自律神経のバランスに働きかけることが、末梢の血流改善につながっている可能性を示す結果だといえます。
まとめ:単純な「血行の問題」だけでは説明できない
ここまで見てきたように、冷え性は「血行が悪いから手足が冷たい」という単純な図式だけでは説明しきれない部分があります。
身体的な特徴や皮膚温の実測値と、冷えの自覚とは必ずしも一致しないこと、そして自律神経の働き方や血管内皮の機能、筋肉量といった複数の要因が絡み合っている可能性があることが、研究データから見えてきます。
「冷え性だから」と一括りにせず、自分の生活習慣(運動量、筋肉量、自律神経を乱しやすい要因など)を含めて体の状態を見ていくことが大切だと考えています(冷えの感じ方や背景には個人差があります)。
参考文献
- 楠幹江 (2014). 運動負荷からみた冷え性自覚者の下肢皮膚温について. 安田女子大学紀要, 42, 177-185.
- 福岡知子, 尾形優, 茅島綾, 種市輝, 河野かおり, 金子健太郎, 山本真千子 (2022). 冷え症の生理学的メカニズムについて(男女差の検討). 日本臨床生理学会雑誌, 52(2), 87-93. DOI: 10.34363/jocp.52.2_87
- Kono K, Abe S, Yamamoto M, Kayashima R, Kaneko K, Sakuma M, Toyoda S, Nakajima T, Inoue T. (2021). Vascular Endothelial Dysfunction and Autonomic Nervous Hyperactivity among Premenopausal Women with Cold-Sensitivity Constitution (Hiesho). Tohoku Journal of Experimental Medicine, 253(1), 51-59.
- Kono K, Kayashima R, Abe S, Nakajima T, Toyoda S. (2025). Warm-Water Footbathing in Young Women With Cold-Sensitivity Constitution (Hiesho) Increases Parasympathetic Nerve Activity and Promotes Peripheral Circulation. Cureus. DOI: 10.7759/cureus.89470

