「朝起きると首や肩が痛い」「寝ても疲れが取れない」——そんなとき、”枕が合っていないのかも”と考えたことはありませんか。
枕の高さや硬さ、寝る姿勢は、睡眠中の首や肩に影響する可能性があります。実際に、枕の高さを調整したり、特定の枕を使用したりすることで、首の痛みなどが改善したことを報告した研究もあります。
一方で、「この枕を使えば猫背が治る」「仰向けで寝れば姿勢が良くなる」とまで言えるわけではありません。
この記事では、睡眠中の姿勢や枕が首・肩の状態にどのように関係するのか、そして「症状が楽になること」と「姿勢が改善すること」は何が違うのかを、研究データをもとに整理します。
なぜ睡眠中の姿勢が注目されるのか
日中は、首や肩まわりの筋肉が頭の重さを支え続けています。仰向けや横向きで眠っている間は、この筋肉の緊張がゆるみ、休息の時間になると考えられています。
このとき、枕が高すぎたり低すぎたりすると、首まわりの筋肉がうまく休めず、緊張したまま朝を迎えることがあると言われています。
そのため、睡眠中の首の角度を保つ枕の高さが、これまでいくつかの研究で調べられてきました。
研究で示されていること
枕の高さを調整すると症状が変化する
2023年に発表された研究では、肩こりや首の痛みを訴える84人を対象に、一人ひとりに合わせて枕の高さを厳密に調整する方法(Set-up for Spinal Sleep法)が試されました(Yamada et al., 2023)。
3か月後、42人(50%)が、首の痛みの評価スケール(NRS)で3点以上の改善という、臨床的に意味のある水準(MCID)まで改善したと報告されています。また、痛みの改善は、倦怠感などの身体症状の改善とも関連していたとされています。
なお、この研究は枕の高さを調整した前後を比較した研究であり、別の枕を使った対照群との比較ではありません。そのため、「枕を調整したから改善した」と強い因果関係を結論づけることはできず、あくまで調整前後で変化がみられた、という結果として捉える必要があります。
枕の素材を変えることの効果
2019年に発表されたランダム化比較試験では、慢性的な首の痛みを持つ成人70人を対象に、スプリング構造を持つ枕と、姿勢に関する教育指導とを比較しました(Vanti et al., 2019)。
その結果、教育指導のみのグループと比べて、スプリング枕を使用したグループの方が、首・背中・頭部の痛みの改善幅が大きかったと報告されています。
ただし、この結果がスプリング枕特有のものなのか、他の高機能な枕でも同様の効果が得られるのかについては、今後の研究が必要とされています。
メタ解析から見える全体像
2021年に発表されたシステマティックレビューでは、枕に関する35件の臨床試験(うち高品質な研究9件、555人分のデータ)がまとめて検討されました(Pang et al., 2021)。
その結果、スプリング素材やラテックス素材の枕は、首の痛みや起床時の症状、日常生活への支障を軽減し、満足度を高める効果があったと報告されています。
一方で興味深いことに、同じレビューでは、枕を変えても頸椎(首の骨)のアライメント自体には大きな変化がみられない場合があるとも報告されています。
つまり、枕が症状を和らげる効果と、骨格そのものを矯正する効果は、必ずしも同じ意味ではないと考えられます。
「症状が改善すること」と「姿勢が改善すること」は別
ここが、この記事で最も伝えたいポイントです。
枕を変えて首の痛みが楽になったとしても、それだけで猫背やストレートネックなどの姿勢が改善したとは限りません。
これは、痛みと姿勢が必ずしも一対一で結びついているわけではないためです。前回・前々回の記事でお伝えしてきたように、姿勢そのものも、筋力や骨盤・胸椎の動き、日々の身体の使い方など、複数の要素が関わって作られています。
先ほどのPang et al.(2021)のレビューでも、枕によって首の痛みや起床時の症状が改善する一方、頸椎のアライメントには大きな変化がみられないケースが報告されています。
つまり、「朝の首の痛みが減った」という変化と、「骨格の位置が変わった」という変化は、分けて考える必要があります。枕は症状を和らげる助けになる可能性がありますが、「枕を変えれば姿勢そのものが変わる」と言い切ることはできません。
「絶対に正しい寝方」があるわけではない
ここまでの研究に共通しているのは、「この枕・この寝方が万人にとって正解」という結論ではない、という点です。
最適な枕の高さは、体格、普段の寝る姿勢(仰向け・横向きなど)、マットレスの硬さなど、複数の要素によって変わるとされています。
そのため、「みんなが使っているから」「口コミで評判が良いから」という理由だけで枕を選ぶのではなく、自分の首や肩の状態に合っているかどうかを基準にしていただくのがよいと考えられます。
睡眠の質と姿勢の関係
「自分に合った枕なら、首の痛みだけでなく睡眠の質そのものも必ず良くなる」と考える方もいるかもしれません。しかし、この点についても慎重にみる必要があります。
Pang et al.(2021)の研究では、枕のデザインの違いが睡眠の質にどう影響するかについても検討されていますが、その効果については一貫した結論が得られておらず、「inconclusive(明確な結論が出ていない)」と評価されています。
つまり、枕を変えることで「首の痛みは楽になったけれど、睡眠時間や睡眠の質そのものには大きな変化を感じない」ということも、十分に考えられます。
睡眠と姿勢の関係は、一方向だけではなく、双方向である可能性も指摘されています。枕が合わず首や肩の筋肉が休まらないと、睡眠の質そのものが低下することがあると言われる一方、日中の姿勢や身体の緊張が強い状態が続くと、寝つきにくさにつながる可能性も考えられます。
ただし、この関連については、まだ研究途上の部分も多く、「姿勢が悪いと必ず眠れなくなる」といった強い因果関係が証明されているわけではありません。あくまで関連が指摘されている段階として捉えていただくのがよいと考えています。
日常でできること
枕や寝具を大きく変える前に、まずは今の状態を振り返ってみることをおすすめします。
- 朝起きたときに首や肩に違和感がないか確認する
- 仰向けで寝たとき、首が極端に反ったり曲がったりしていないか見直す
- 枕の高さをタオルなどで一時的に調整し、変化を試してみる
- 日中も同じ姿勢を長時間続けないようにする
- 症状が続く場合は、自己判断で寝具を買い替える前に専門家に相談する
まとめ
枕の高さや素材は、首や肩の症状に一定の影響を与える可能性が、複数の研究で示されています。
ただし、「これが唯一の正解」という寝方や枕があるわけではなく、体格や普段の姿勢によって適したものは異なると考えられます。
そして何より、「症状が楽になること」と「姿勢そのものが改善すること」は同じではありません。枕は睡眠中の負担を和らげる助けになる可能性がありますが、姿勢の改善には、日中の身体の使い方や運動習慣など、これまでの記事でお伝えしてきた複数の要素が関わっていると考えられます。
参考文献
Yamada S, Hoshi T, Toda M, Tsuge T, Matsudaira K, Oka H. Changes in neck pain and somatic symptoms before and after the adjustment of the pillow height. J Phys Ther Sci. 2023;35(2):106-113. DOI: 10.1589/jpts.35.106
Vanti C, Banchelli F, Marino C, Puccetti A, Guccione AA, Pillastrini P. Effectiveness of a “Spring Pillow” Versus Education in Chronic Nonspecific Neck Pain: A Randomized Controlled Trial. Phys Ther. 2019;99(9):1177-1188. DOI: 10.1093/ptj/pzz056
Pang JCY, Tsang SMH, Fu ACL. The effects of pillow designs on neck pain, waking symptoms, neck disability, sleep quality and spinal alignment in adults: A systematic review and meta-analysis. Clin Biomech. 2021;85:105353. DOI: 10.1016/j.clinbiomech.2021.105353

