一度腰が痛くなると、「また痛くなるのでは」と不安になる方は多いと思います。では、腰痛を予防するために、何をすればよいのでしょうか。
この記事では、腰痛の予防策を比べた大規模な系統的レビューを中心に、運動・知識の提供(教育)・腰ベルト・靴の中敷きの効果を整理します。あわせて、すでに続いている慢性の腰痛に対する運動の効果についても、コクラン・レビューの結果を紹介します。
予防策を比べた21の試験:運動が有望、教育だけでは差が出なかった
腰痛の予防策について、ランダム化比較試験をまとめた系統的レビューとメタ解析があります(Steffens et al., 2016, JAMA Internal Medicine)。非特異的な腰痛の予防策を調べた21の試験(参加者は延べ30,850人)が対象で、主な評価は「腰痛が起こるかどうか」でした。
運動と教育の組み合わせ:腰痛のリスクが下がった
運動と教育を組み合わせた介入では、腰痛が起こるリスクの相対危険度(RR)が0.55(95%信頼区間0.41〜0.74)でした。つまり、介入を受けなかった場合に比べて、腰痛が起こる割合が約45%低かったことになります。エビデンスの質は「中程度」と評価されています。
運動だけの介入でも、RRは0.65(0.50〜0.86)で、リスクの低下が見られました。ただし、こちらのエビデンスの質は「低い〜非常に低い」とされています。
教育だけ、ベルト、中敷きは、腰痛を減らさなかった
一方で、教育(知識や対処法を伝える介入)のみでは、RRが1.03(0.83〜1.27)で、腰痛の発生に差は見られませんでした。腰ベルトもRR 1.01(0.71〜1.44)、靴の中敷きもRR 1.01(0.74〜1.40)で、予防効果は認められていません。
RRが1.0に近いということは、「やった群とやらなかった群で、腰痛になる割合がほぼ同じだった」という意味です。著者らは、運動の単独または教育との組み合わせは予防に有効、それ以外の介入は予防に有効とは考えにくい、と結論づけています。
腰ベルトについては、姿勢矯正ベルト・サポーターの記事や猫背矯正ベルトの記事でも、根拠の面から整理しています。
病欠を減らせるかは、はっきりしない
腰痛による病欠(仕事を休むこと)については、運動と教育の組み合わせでRR 0.74(0.44〜1.26)で、差は見られませんでした。運動だけでは0.22(0.06〜0.76)と低下していましたが、エビデンスの質は低いとされています。このため、「病欠が減るか」については、確かなことは言えない段階です。

すでに慢性の腰痛がある場合:運動療法の効果
予防とは別に、3か月以上続く慢性の非特異的腰痛に対する運動療法を調べたコクラン・レビューもあります(Hayden et al., 2021)。249の試験を対象としており、参加者の平均年齢は43.7歳、約59%が女性でした。
運動療法は、治療しない場合や通常のケア、プラセボと比べて、痛みを改善しました(0〜100点の尺度で平均−15.2点、95%信頼区間−18.3〜−12.2)。この差は、研究者らが「臨床的に意味のある差」と定めた15点の基準に達しています。エビデンスの質は「中程度」です。
一方、日常生活の支障(機能)への効果は平均−6.8点で、事前に定めた「臨床的に意味のある差」(10点)には届きませんでした。
ほかの保存的治療との比較では、運動療法は「教育だけ」や、運動を伴わない理学療法より痛みの改善が大きい可能性が示されました。一方で、手技療法(徒手療法)との間には差が見られませんでした。
運動療法は、ほかの保存的治療すべてと比べても、痛み(平均−9.1点)と機能(−4.1点)の両方で上回りましたが、これらの差は、事前に定めた「臨床的に意味のある差」には届きませんでした。運動が「ほかの治療を圧倒する」というより、「動くこと自体に一定の裏づけがある」と読むのが適切です。
運動の安全性:有害事象は、運動群で多いわけではなかった
有害事象を報告していた86の研究では、1つ以上の有害事象が報告されたのは、運動群112群のうち37群(33%)、比較群42群のうち12群(29%)でした。多くは、筋肉痛などの軽いものでした。
運動で痛みが一時的に増えることはありえますが、運動群で特別に有害事象が多いという結果ではありませんでした。ただし、強い痛みや、しびれ・脱力を伴うときは、無理に続けず、医療機関に相談してください。
別のメタ解析でも運動が有望:週2〜3回が目安とされた
予防のための運動を調べた別のメタ解析もあります(Shiri et al., 2018, American Journal of Epidemiology)。ランダム化比較試験13件と非ランダム化試験3件が対象でした。
運動だけで、腰痛のリスクが33%低下しました(RR 0.67、95%信頼区間0.53〜0.85、8試験・1,634人)。運動と教育の組み合わせでは27%の低下でした(RR 0.73、0.59〜0.91、6試験・1,381人)。腰痛の重さや、腰痛による生活の支障も、運動群のほうが軽い結果でした。非ランダム化試験を除いても、結果は変わりませんでした。
一方で、受診や病欠については、有意な予防効果は示されませんでした。研究が少なかったためです。著者らは、筋力トレーニングに、ストレッチまたは有酸素運動を組み合わせて、週2〜3回行うことが、一般集団の腰痛予防として、妥当に推奨できると述べています。
ここまでの2つのメタ解析で、運動が予防に有望という方向は一致しています。ただし、「どの運動を何分」という細かな処方までは、示されていません。
腰痛が治ったあとの再発予防:歩行と教育の試験(WalkBack)
「すでに一度よくなった人」の再発予防に絞った、大規模な試験が2024年に報告されています(Pocovi et al., 2024, The Lancet)。オーストラリアで、直近に非特異的な腰痛(24時間以上続いたもの)から回復した成人701人が対象でした。女性が81%で、平均年齢は54歳でした。
参加者は、理学療法士による6か月間・6回のセッションで、個人に合わせて段階的に進める「歩行」と「教育」のプログラムを受けるグループと、何も受けない対照群に分けられました。追跡期間は12〜36か月で、主な評価は「活動が制限されるほどの腰痛が、初めて再発するまでの日数」でした。
結果、プログラム群で、再発のリスクが低下していました(ハザード比0.72、95%信頼区間0.60〜0.85)。再発までの日数の中央値は、プログラム群で208日、対照群で112日でした。費用対効果も良好と評価されています。
注意点もあります。1年間で何らかの有害事象があった人の割合は両群で同程度(52%と54%)でしたが、下肢(脚)に関する有害事象は、プログラム群のほうが多くなっていました(100件と54件)。また、参加者は割付を知っている状態で、再発は自己申告です。
「歩く」という身近な運動に、理学療法士の指導と教育が組み合わさった結果であり、「ただ歩けばよい」という意味ではない点は押さえておきたいところです。それでも、40〜50代以降の女性が中心の集団で、再発を遅らせる効果が示されたことは、心強い結果です。
この結果から見えてくること
予防の研究では、「運動」が共通して有望な介入で、「知識を得るだけ」や「道具を使うだけ」では差が出にくい、という傾向がうかがえます。
注意したいのは、このレビューは「どんな運動が最適か」までは結論づけていないことです。運動の種類・頻度・強さの最適な組み合わせは、まだはっきりしていません。ピラティス・ヨガと腰痛の記事や体幹トレーニングの記事でも、個別の運動についての根拠を整理しています。
また、この記事は一般的な情報提供であり、腰痛の診断や治療に代わるものではありません。足のしびれや脱力が出ている場合など、気になる症状があるときは医療機関にご相談ください。
数字の読み方:相対危険度0.55は「45%の人が助かる」ではない
運動と教育の組み合わせで、相対危険度(RR)が0.55だった、という結果を見て、「やれば45%の人が腰痛にならない」と受け取ってしまいがちです。ここは、少し注意が必要です。
「相対」は、割合どうしの比べ方
RR 0.55は、「やらなかった群で腰痛が起きた人の割合」に対して、「やった群で腰痛が起きた人の割合」が0.55倍(約半分強)だった、という意味です。「100人中45人が助かる」という意味ではなく、あくまで、割合どうしを比べた数字です。
つまり、元々の腰痛の起こりやすさによって、「何人が助かるか」は変わります。腰痛が起こりやすい人たちには大きな差になり、起こりにくい人たちには小さな差になります。
このレビューが示していないこと
要旨で確認できる範囲では、このレビューは、どの運動が最も効くのか、1週間にどれくらい行えばよいのか、までは示していません。また、「予防」の対象となった人たちの中に、腰痛の既往がある人とない人が、それぞれどれくらい含まれていたかも、要旨からは分かりません。
したがって、ここから言えるのは、「運動を取り入れている集団では、そうでない集団より、腰痛の起こるリスクが低い傾向があった」というところまでです。「この運動をこの回数やれば、再発しない」とまでは言えません。
運動の具体的な選び方は、ウォーキングの姿勢の記事や、ピラティス・ヨガの記事の根拠も参考に、自分が続けられるものを選ぶのが現実的です。
施術現場から:続けやすさを優先している
日々の施術で運動をすすめるとき、私は、運動の種類を選ぶことより、続けられる形に落とし込むことを重視しています。具体的には、「大きくゆっくり動かす頻度を増やす」ことです。
これは施術現場での実感であり、研究で直接確かめた内容ではありません。
上のレビューで「運動」が有望だったことと、「続けられる形にすること」は別の話です。予防のために、無理なく続けられる動かし方を見つけることが、結局は近道だと考えています。
続けるための考え方は、運動習慣が身につくまでの日数の記事で、デスクワークの合間に動く工夫は、小休憩の記事で整理しています。痛みが強いときや、しびれ・脱力があるときの受診の目安は、受診すべきサインの記事をご覧ください。
まとめ:腰痛予防は「道具」や「知識だけ」より、動くこと
腰痛の予防策を比べた21の試験では、運動(単独または教育との組み合わせ)でリスクが下がり、教育のみ・腰ベルト・靴の中敷きでは差が見られませんでした。慢性の腰痛に対しても、運動療法は痛みを改善する中程度のエビデンスがあります。
最適な運動の種類や量はまだはっきりしていないため、「これをやれば大丈夫」という一つの正解を探すより、続けられる形で体を動かす頻度を増やすことが現実的です。
すでに一度よくなった人を対象にした大規模な試験でも、個人に合わせて段階的に進める歩行と教育のプログラムで、再発までの日数が長くなりました。
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参考文献
- Steffens D, Maher CG, Pereira LS, et al. (2016). Prevention of Low Back Pain: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA Internal Medicine. DOI: 10.1001/jamainternmed.2015.7431
- Hayden JA, Ellis J, Ogilvie R, et al. (2021). Exercise therapy for chronic low back pain. Cochrane Database of Systematic Reviews. DOI: 10.1002/14651858.CD009790.pub2
- Shiri R, Coggon D, Falah-Hassani K. (2018). Exercise for the Prevention of Low Back Pain: Systematic Review and Meta-Analysis of Controlled Trials. American Journal of Epidemiology. DOI: 10.1093/aje/kwx337
- Pocovi NC, Lin CC, French SD, et al. (2024). Effectiveness and cost-effectiveness of an individualised, progressive walking and education intervention for the prevention of low back pain recurrence in Australia (WalkBack): a randomised controlled trial. The Lancet. DOI: 10.1016/S0140-6736(24)00755-4
