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体幹トレーニングの正しいやり方:初心者向けメニューを研究データから解説


これまでの記事で、反り腰やインナーマッスルとの関連から「体幹の安定性を高めることが重要」とお伝えしてきました。今回はその実践編として、体幹トレーニングの効果に関する研究データと、初心者でも取り組みやすい考え方を整理します。

体幹の安定性を支える2つの深部筋

体幹トレーニングを理解するうえで鍵になるのが、「腹横筋」と「多裂筋」という2つの深部筋です。

腹横筋とは

お腹周りをコルセットのように取り囲む筋肉です。収縮すると腹腔内の圧力を高め、体幹を内側から安定させる働きがあります。

多裂筋とは

背骨の一つ一つをつなぐ小さな筋肉群です。背骨の分節ごとの安定性(隣り合う背骨同士がぐらつかないようにする働き)を担っていると考えられています。

この2つの筋肉は、腕や脚を動かす直前に、無意識のうちに先回りして収縮する「フィードフォワード」と呼ばれる仕組みで働くことが知られています。つまり、実際に身体を動かす前に、あらかじめ体幹を固めて土台を安定させておくという、姿勢制御の基本的な仕組みの一部です。

腰痛がある人は、この「先回り」が遅れている

この分野で特に重要とされているのが、1996年に発表された研究です。腰痛のある人とない人を対象に、腕を素早く動かす動作の直前における腹横筋の活動タイミングを比較したところ、腰痛のある人では、腹横筋の収縮開始が有意に遅れていたと報告されています。

この「先回りの遅れ」は、体幹の安定化がうまく機能していないことを示すと考えられ、以後の体幹トレーニング研究の理論的な土台になりました。加えて、慢性的な腰痛がある人では、多裂筋に脂肪が入り込む変化(脂肪浸潤)や、筋肉そのものが萎縮する変化が確認されることも報告されており、痛みが続くことで、体幹を支える筋肉自体の質が変化してしまう可能性も示唆されています。

興味深いことに、脳の中で腹横筋と多裂筋の活動を司る領域(一次運動野)の配置も、健康な人では近接して組織化されているのに対し、慢性腰痛のある人ではこの領域が離れて組織化されていたとする研究もあります。体幹の不安定さは、筋肉だけでなく、脳における運動制御の仕組みの変化とも関わっている可能性があるということです。

体幹安定化エクササイズの効果:研究データで見ると

2022年に発表されたシステマティックレビューでは、非特異的な慢性腰痛を持つ人を対象にした5件のランダム化比較試験が検討されています。

その結果、体幹安定化エクササイズを行ったグループでは、痛みの評価(視覚的アナログスケール)が、対照群と比べて大きく改善したと報告されています。研究によって幅はあるものの、3.08〜4.93ポイントの改善がみられ、機能障害の指標も、ある研究では32ポイントもの改善が報告されています。

この結果を受けて、体幹安定化エクササイズは、非特異的な慢性腰痛に対する治療法として、グレードB(好ましい方法と考えられる)の評価がなされています。

「腹筋を鍛える」こととは何が違うのか

体幹安定化エクササイズは、一般的な「腹筋運動」とは目的が異なります。腹直筋(いわゆる割れた腹筋をつくる筋肉)を強く鍛えることが目的ではなく、腹横筋や多裂筋といった、背骨や骨盤を深部から支える筋肉を働かせ、体幹の安定性を高めることを目的としています。

研究で用いられているプログラムの多くは、簡単な動作から始め、支持基底面(体を支える範囲)を徐々に狭くしたり、不安定な状況を加えたりしながら、段階的に難易度を上げていく構成になっています。いきなり負荷の高い種目に取り組む必要はなく、簡単な動作から始めて、できる範囲で少しずつ難易度を上げていくことが推奨されています。

「ドローイン」と「ブレーシング」、どちらが正しいのか

体幹トレーニングの方法として、しばしば対比的に語られるのが「ドローイン」と「ブレーシング」という2つのテクニックです。

ドローインとは

お腹を薄く凹ませるテクニックです。腹横筋を選択的に働かせやすいとされます。

ブレーシングとは

お腹全体を固めるように力を入れるテクニックです。腹直筋・腹斜筋・腹横筋を含めた体幹全体を、より実際の動作に近い形で安定させると考えられています。

どちらか一方が絶対的に正しいというより、目的によって使い分けるべきだという見方が広がっています。例えば重い荷物を持ち上げるような場面では、体幹全体をしっかり固めるブレーシングの方が理にかなっている一方、リハビリテーションの初期段階で深部の筋肉を意識的に働かせたい場合には、ドローインが導入として使われることが多いとされています。

初心者が意識したいポイント

これまでの記事の内容も踏まえると、体幹トレーニングに取り組む際は、次の点を意識するとよいと考えられます。

  • 呼吸を止めずに行う(骨盤底筋・横隔膜と連動する動きのため)
  • 反り腰の記事でお伝えしたように、体幹の安定化エクササイズは腰椎の前弯角にも小さな改善効果が報告されている
  • 最初から難しい種目を選ばず、簡単な動作から段階的に難易度を上げる
  • 重い荷物を持つ場面ではブレーシング、意識づけの段階ではドローインなど、場面に応じて使い分ける
  • 痛みが出る場合は無理をせず、フォームを専門家に確認してもらう
体幹の「先回り収縮の遅れ」から見える、腰痛との関係
体幹の「先回り収縮の遅れ」から見える、腰痛との関係

体幹トレーニングを始める前に

  • 簡単な動作から始め、慣れてきたら少しずつ難易度を上げる
  • 呼吸を止めずに、腹圧を保ちながら行う
  • 毎日長時間行うより、無理なく継続できる頻度・強度を優先する
  • 腰に痛みがある場合は、自己流で始める前に専門家にフォームを確認してもらう

まとめ:体幹は”鍛える”より”使える”ようにする

体幹安定化エクササイズには、非特異的な慢性腰痛に対する効果を示す研究データがあり、その理論的な背景には、腰痛のある人で腹横筋の「先回り収縮」が遅れているという1996年の基礎研究があります。反り腰の記事でお伝えした腰椎前弯角の改善効果とも関連しています。一般的な腹筋運動とは異なる目的を持つトレーニングであることを理解した上で、簡単な動作から無理なく取り入れていただくことをおすすめします。

参考文献

  • Hodges PW, Richardson CA. Inefficient muscular stabilization of the lumbar spine associated with low back pain. A motor control evaluation of transversus abdominis. Spine. 1996;21(22):2640-2650.
  • Smrcina Z, Woelfel S, Burcal C. A Systematic Review of the Effectiveness of Core Stability Exercises in Patients with Non-Specific Low Back Pain. Int J Sports Phys Ther. 2022;17(5):766-774. DOI: 10.26603/001c.37251

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