首や腰の痛みで病院に行くべきサインは?「レッドフラッグ」の根拠と限界

運営者:りっぽうたい(柔道整復師・介護福祉士/施術歴14年/東京で整骨院を開業)|プロフィール

首や腰の痛みのほとんどは、命に関わる病気が原因ではありません。それでも、「このまま様子を見ていていいのか」「病院に行くべきか」と迷う場面はあります。

医療の現場では、重大な病気(骨折、がん、感染症、脊髄や神経の圧迫など)の可能性を疑う手がかりを「レッドフラッグ(危険信号)」と呼びます。この記事では、そのレッドフラッグについて、どこまで根拠があるのかを研究から整理します。

重大な病気の頻度:ほとんどの腰痛は心配のいらないもの

まず、重大な病気がどれくらい隠れているのかを見てみます。

腰痛の診療ガイドラインに載っているがんのレッドフラッグを検討した系統的レビューでは、プライマリケア(かかりつけ医など)を受診した腰痛患者のうち、悪性腫瘍が見つかった割合は0〜0.7%でした(Verhagen et al., 2017, Pain)。

腰椎の圧迫骨折などの脊椎骨折では、コクラン・レビューが、プライマリケアでの有病率を0.7〜4.5%、救急外来では6.5〜11%と報告しています(Williams et al., 2023)。なお、このレビューは、その後に更新版が出されています。

救急外来を受診した腰痛患者を調べた別のレビューでは、緊急の治療が必要になる病態の割合は、前向き研究で2.5〜5.1%でした(Galliker et al., 2020, American Journal of Medicine)。救急外来は重い症状の人が集まる場所なので、プライマリケアより割合が高くなります。

救急外来で見つかった病態の内訳

救急外来のレビュー(22の研究、計41,320人)では、緊急の治療が必要な病態の内訳も示されています。研究によって幅がありますが、脊椎の骨折が0.0〜7.2%、脊椎のがんが0.0〜2.1%、感染性の病態が0.0〜1.9%、脊髄や馬尾(脊髄の下端に続く神経の束)の圧迫を伴う病態が0.1〜1.9%、血管の病態が0.0〜0.9%でした(Galliker et al., 2020)。

いずれも頻度は高くありませんが、見逃したときの影響が大きい病態です。「めったにないが、見逃したくない」ことが、レッドフラッグという考え方の出発点だといえます。

腰痛のレッドフラッグ:ガイドラインが挙げるものと、その裏づけ

各国の腰痛ガイドラインを調べたレビューでは、16のガイドラインで計46種類のレッドフラッグが挙げられていました(Verhagen et al., 2016, European Spine Journal)。多くのガイドラインで共通していたのは、次のようなものです。

  • 大きな外傷、またはステロイド・免疫抑制薬の使用(骨折を疑う手がかり)
  • がんの既往、原因のはっきりしない体重減少(悪性腫瘍を疑う手がかり)
  • 安静にしていても痛む、夜間に痛む(さまざまな病気で挙げられる手がかり)

ただし、これらの「ガイドラインに載っていること」と「診断の精度が確かめられていること」は別です。この点が、このテーマの最も大事なところです。

がん:精度が確かめられていたのはごく一部

がんのレッドフラッグについてのレビューでは、ガイドラインで挙げられている13のうち、診断精度のデータが複数の研究にあったのは5つで、その中で「有用」と判断できたのは「がんの既往」と「強い臨床的な疑い」の2つだけでした(Verhagen et al., 2017)。多くのレッドフラッグは、その由来がはっきりしないか、症例報告に基づいていました。

骨折:単独の項目より、組み合わせのほうが有用

脊椎骨折のレッドフラッグについては、プライマリケアでは「大きな外傷」「高齢」「ステロイドの使用」が、有用な可能性のある項目として挙がりました。ただし、推定値の幅は大きく、あいまいさが残ります。複数のレッドフラッグを組み合わせたほうが、単独で使うより精度が高くなる傾向も示されています(Williams et al., 2023)。同時に、多くのレッドフラッグは「偽陽性」(異常がないのに引っかかること)が多いことも指摘されています。

救急外来のレビューから

救急外来のレビューでは、「がんの疑いまたは既往」が脊椎のがんを、「静脈注射薬の使用」「留置されたカテーテル」「ほかの感染部位」が硬膜外膿瘍(脊髄周囲の膿のたまり)を疑う手がかりになるとされました。ただし、ほとんどのレッドフラッグの精度は、1つの研究でしか報告されておらず、さらなる検証が必要とされています(Galliker et al., 2020)。

骨折・がんを見分ける手がかりの「確率」:BMJのレビューから

腰痛のレッドフラッグを、骨折とがんに絞って調べた系統的レビューもあります(Downie et al., 2013, BMJ)。14の研究(53種類のレッドフラッグ)が対象でした。

結論の中心は、ガイドラインに載っているレッドフラッグの多くは、あるかないかで、骨折やがんの確率がほとんど変わらないか、そもそも精度が検証されていない、というものでした。

一方で、確率が比較的高まる項目もありました。「その項目が当てはまったとき、実際に病気がある確率」(検査後確率)で見ると、骨折では、高齢(9%)、ステロイドの長期使用(33%)、強い外傷(11%)、打撲痕や擦過傷の存在(62%)などでした。複数のレッドフラッグが重なると、脊椎骨折の確率は90%まで上がりました(ただし、推定の幅は34〜99%と非常に広い)。がんでは、「がんの既往」が33%で、最も高い項目でした。

これらの数字は、研究の対象となった集団や受診の場面(プライマリケア、救急外来など)によって変わるものです。数字そのものより、「単独の項目より、重なったときのほうが手がかりになる」「当てはまっても、すべてが病気というわけではない」という見方が大切です。

首の痛みのレッドフラッグ:ガイドライン間の一致はほぼない

首の痛みについても、同じような整理が行われています(Feller et al., 2024, Archives of Physiotherapy)。29の診療ガイドラインを調べたところ、そのうち12のガイドラインが、合計114のレッドフラッグを挙げていました。対象は、骨折、がん、脊椎の感染、脊髄症(脊髄の障害)、動脈解離などさまざまです。

注目すべきは、ガイドライン間の一致の度合いが、ほぼゼロ(Fleissのκの中央値が0)だったことです。レッドフラッグの多くは専門家の意見に基づいており、どの項目を挙げるべきかについて、合意が取れていません。

著者らは、現在の根拠の限界から、どのレッドフラッグを使うべきかという具体的な推奨はできないとしています。例外は、外傷後の骨折を判断する「カナディアン・シースパイン・ルール」の利用です。

レッドフラッグ:ガイドラインに載っていても、精度の裏づけは限られる
レッドフラッグ:ガイドラインに載っていても、精度の裏づけは限られる

「ガイドラインに載っている」と「診断に役立つ」は別の話

レッドフラッグの精度を考えるときは、2つの面があります。ひとつは、重大な病気がある人を、見逃さずに拾えるか。もうひとつは、重大な病気がない人を、間違って拾いすぎないか、です。

たとえば、条件を広くして、多くの人が引っかかるようにすると、重大な病気の人を見逃しにくくなる反面、病気のない多くの人も「陽性」になります(偽陽性)。Williamsらのレビューも、多くのレッドフラッグは偽陽性が多く、そのまま鵜呑みにすると、検査や医療費の負担が増えるおそれがある、と指摘しています。

一方、組み合わせて使うと、精度が上がる傾向があります。「1つ当てはまった」だけで過度に心配するより、いくつかが重なっていないか、症状が時間とともにどう変わっているかを、専門家と一緒に見ていくほうが現実的です。

根拠が弱いからといって、様子見でよいわけではない

「レッドフラッグに根拠がない」という結果は、「受診しなくてよい」という意味ではありません。研究が示しているのは、「どのサインが重大な病気を最もよく見分けるのか、まだ確かでない」という、診断の精度の問題です。

そのため、一般的に受診が勧められる目安を、「確かな基準」ではなく「疑う手がかり」として使うのが現実的です。たとえば、次のような場合は、早めに医療機関に相談したほうがよいと考えられます。

  • 転倒や事故など、強い外傷のあとに痛みが出た
  • 安静にしていても痛みが和らがない、夜間も痛みが強い
  • 発熱や、原因のはっきりしない体重減少がある
  • 手足のしびれや脱力が出ている、または進んでいる
  • 排尿・排便の異常や、股のあたりのしびれがある
  • 首の痛みにしびれやリンパ節の腫れが伴っている

これらは、リストとしての根拠が確立されたものではありません。1つでも当てはまれば病気、ということでもありません。「迷うなら相談する」ことを前提にした、目安として捉えてください。

どこを受診するか迷うときは、整形外科・整骨院・整体の違いの記事も参考にしてください。脚にまで痛みやしびれが広がっている場合は、坐骨神経痛の記事で、経過や治療法の根拠を整理しています。頭痛を伴う場合は、緊張型頭痛と首の関係の記事もあわせてどうぞ。

施術現場から:迷っているなら、受診をすすめる

施術の場で、患者さんが「医療機関を受診したほうがいいだろうか」と悩んでいるときは、私は受診をすすめます。止めることはしません。受診して異常がなければ、安心して運動や日常生活に戻れるからです。

特に、首の痛みにしびれが伴う場合や、リンパ節の腫れが感じられる場合は、受診をすすめています。これは、研究で確かめられた基準というより、施術者としての判断の姿勢です。上で見たとおり、レッドフラッグの精度には不確かさが残るため、「念のため」の受診は、決して大げさではないと考えています。

まとめ:「サインのリスト」より、「迷ったら相談する」姿勢を

首や腰の痛みの大半は、重大な病気によるものではありません。一方で、ガイドラインが挙げるレッドフラッグの多くは、診断精度の裏づけが十分ではなく、特に首の痛みでは、ガイドライン間の一致もほとんどありません。

だからこそ、チェックリストに当てはまるかどうかで自己判断せず、強い外傷、進む脱力やしびれ、排尿・排便の異常、発熱などがあるときや、不安が強いときには、早めに医療機関に相談してください。この記事は、診断を行うものではありません。

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参考文献

  • Verhagen AP, Downie A, Popal N, et al. (2016). Red flags presented in current low back pain guidelines: a review. European Spine Journal. DOI: 10.1007/s00586-016-4684-0
  • Verhagen AP, Downie A, Maher CG, et al. (2017). Most red flags for malignancy in low back pain guidelines lack empirical support: a systematic review. Pain. DOI: 10.1097/j.pain.0000000000000998
  • Williams CM, Henschke N, Maher CG, et al. (2023). Red flags to screen for vertebral fracture in patients presenting with low-back pain. Cochrane Database of Systematic Reviews. DOI: 10.1002/14651858.CD008643.pub3
  • Galliker G, Scherer DE, Trippolini MA, et al. (2020). Low Back Pain in the Emergency Department: Prevalence of Serious Spinal Pathologies and Diagnostic Accuracy of Red Flags. American Journal of Medicine. DOI: 10.1016/j.amjmed.2019.06.005
  • Feller D, Chiarotto A, Koes B, et al. (2024). Red flags for potential serious pathologies in people with neck pain: a systematic review of clinical practice guidelines. Archives of Physiotherapy. DOI: 10.33393/aop.2024.3245
  • Downie A, Williams CM, Henschke N, et al. (2013). Red flags to screen for malignancy and fracture in patients with low back pain: systematic review. BMJ. DOI: 10.1136/bmj.f7095

この記事を書いた人

りっぽうたい|柔道整復師・介護福祉士。施術歴14年。2023年に東京で整骨院を開業し、巻き肩や反り腰など、姿勢・骨格の悩みを抱える女性の施術に携わっています。身体の仕組みから見た姿勢・骨格・コンディショニングの情報を発信しています。プロフィールを見る

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