「くしゃみをしたら尿もれした」「重いものを持ち上げたときに漏れる気がする」——40代・50代になってから、こうした変化を感じ始める方は少なくありません。以前の記事でインナーマッスルの代表格として名前を挙げた「骨盤底筋」について、今回はもう少し詳しく、構造と尿もれとの関係を中心に解説します。
骨盤底筋とはどんな筋肉か
骨盤底筋は、骨盤の底に位置し、膀胱・子宮・直腸などの臓器を下から支えるハンモックのような役割を持つ筋肉群の総称です。単一の筋肉ではなく、恥骨から尾骨にかけて複数の筋肉が層状に重なって構成されており、その中心的な役割を担うのが「肛門挙筋」と呼ばれる筋肉群です。
呼吸や体幹の圧力調整にも関わっており、以前の記事でお伝えしたインナーマッスル(体幹深部の筋肉群)の一つに数えられています。具体的には、横隔膜が下がる(息を吸う)動きと連動して骨盤底筋がわずかに下方へ動き、横隔膜が上がる(息を吐く)動きと連動して骨盤底筋が引き締まる、という協調した動きをしていると考えられています。
尿もれには「タイプ」がある
一口に「尿もれ」といっても、その仕組みにはいくつかのタイプがあります。
腹圧性尿失禁
もっとも多いとされるタイプです。咳・くしゃみ・重い荷物を持つといった、お腹に力が入る瞬間に漏れてしまいます。骨盤底筋や尿道を締める筋肉(尿道括約筋)の働きが弱くなることで、急な腹圧の上昇に耐えられなくなることが背景にあると考えられています。
切迫性尿失禁
急に強い尿意を感じて、トイレに間に合わずに漏れてしまうタイプです。膀胱の筋肉(排尿筋)が、本来は膀胱に尿が十分に溜まるまで働かないはずのタイミングで、勝手に収縮してしまうことが関係しているとされています。
両方が混ざり合った「混合性尿失禁」もあり、タイプによって、有効とされる対策の重点も変わってきます。
更年期以降の尿もれはどのくらい多いのか
尿もれは女性であれば年代を問わず起こりうる症状ですが、更年期以降の女性ではその頻度が高いことが報告されています。中年期以降の女性を対象にした調査では、44〜57%程度が何らかの不随意な尿もれを経験しているとされ、頻尿、夜間の尿意、切迫性尿失禁、腹圧性尿失禁がそれぞれ一定の割合でみられるという報告もあります。
更年期以降にこの頻度が高まる背景には、エストロゲンの減少が関係していると考えられています。エストロゲンには、尿道や膣まわりの粘膜・組織の張りを保つ働きがあるとされ、この作用が弱まることで、尿道を締める力そのものが低下しやすくなるためです。
加えて、出産経験による骨盤底筋・神経へのダメージが、時間を経てから症状として表れてくるケースもあるとされています。決して珍しい症状ではなく、多くの人が経験しうる、加齢に伴う自然な変化の一つとして捉えることができます。
骨盤底筋トレーニングの効果
2025年に発表されたメタ解析では、閉経後の女性を対象にした骨盤底筋トレーニングの効果が検討されています。この解析では、トレーニングを行ったグループが対照群と比べて、症状の改善を示す確率が92%に達したと報告されています。尿もれの症状だけでなく、性機能や睡眠の質、生活の質全体への効果も確認されています。
介入期間についても検討されており、12週間程度のプログラムがもっとも効果的な目安として挙げられています。特別な道具を使わなくても、日常的に取り組める点も特徴です。実際、腹圧性尿失禁に対する第一選択の治療として、3ヶ月以上の指導された骨盤底筋運動が推奨されているとされています。
正しく鍛えるための注意点
骨盤底筋は身体の内部にあるため、正しく収縮できているかを自分で確認しづらい筋肉でもあります。トレーニング指導の現場では、「お腹全体に力を入れてしまう」「お尻や太ももの筋肉で代用してしまう」といった、意図しない代償動作がよくみられると指摘されています。
正しい収縮のイメージとしては、「おしっこを我慢するときのように、肛門から尿道にかけてをキュッと引き上げる」感覚が近いとされています。呼吸を止めずに、お腹や太ももには力を入れすぎない状態で、この引き上げる動きを繰り返すことがポイントです。自己流でうまく感覚がつかめない場合は、専門家の指導を受けることで、より効果的に取り組めると考えられます。

骨盤底筋トレーニングの効果:コクラン・レビューの数字
骨盤底筋トレーニングの効果は、世界中の試験を統合したコクラン・レビューでも検討されています。14か国・31試験・1,817人の女性を対象にした、2018年の更新版です(Dumoulin et al., 2018, Cochrane Database of Systematic Reviews)。
腹圧性尿失禁の女性では、トレーニングを行った群は、何もしない対照群に比べて、治療の終了時に「尿もれが治った」と報告した割合が56%対6%でした(リスク比8.38、4試験・165人、エビデンスの確実性は高い)。「治った、または改善した」まで含めると、74%対11%でした。あらゆるタイプの尿もれをまとめて見ても、「治った」が35%対6%、「治った・改善した」が67%対29%と、トレーニング群が上回っています。
24時間あたりの尿もれの回数は、腹圧性尿失禁でトレーニング群のほうが約1.2回少なく(7試験・432人)、有害事象はまれで、報告されたものも軽いものでした。
ただし、試験は小〜中規模で、追跡期間の多くは12か月未満です。また、切迫性尿失禁だけ、あるいは混合性尿失禁の女性を対象にした試験は、それぞれ1件しかなく、これらのタイプへの効果は十分に確かめられていません。長期的な効果も、今後の研究課題とされています。
「正しく締められている」人は、意外と半数ほど
骨盤底筋トレーニングで見落とされがちなのが、「そもそも正しく収縮できているか」という点です。47人の女性に、簡単な口頭の説明だけを行ったうえで、尿道の圧力を測りながら骨盤底筋の収縮をしてもらった古典的な研究があります(Bump et al., 1991, American Journal of Obstetrics and Gynecology)。
その結果、尿道を閉じる力が十分に高まり、息みも伴わない「理想的な収縮」ができたのは23人(49%)でした。12人(25%)は、かえって尿もれを招きかねない力の入れ方(息み)をしていました。年齢・出産回数・体重・エストロゲンの欠乏などは、うまくできるかどうかを予測しませんでした。
著者らは、簡単な口頭や文書での説明だけでは、トレーニングを始める準備として十分ではないと結論づけています。小規模で古い研究ですが、「やっているつもり」が実は別の動きになっている可能性は、頭に置いておきたい点です。自分の収縮の感覚に自信が持てない場合は、婦人科や理学療法士などの専門家に確認してもらうことが勧められます。
体重の管理も、尿もれに関わる
トレーニング以外のアプローチとして、減量の効果を調べた試験もあります(Subak et al., 2009, New England Journal of Medicine)。週に10回以上の尿もれがある、過体重・肥満の女性338人(平均53歳、BMI約36)を、6か月間の集中的な減量プログラム(226人)と、情報提供のみの対照群(112人)にランダムに割り付けています。
体重は、減量プログラムの群で平均8.0%(7.8kg)、対照群で1.6%(1.5kg)減りました。6か月後の週あたりの尿もれの回数は、減量群で47%、対照群で28%減り、減量群で有意に大きな改善でした。特に腹圧性の尿もれでは改善が大きく、切迫性の尿もれでは、平均の減少には有意な差がありませんでした。
この試験の対象は、BMIが36前後と肥満のある女性です。標準的な体格の方にそのまま当てはまるとは限りませんが、更年期の体型変化の記事で見てきた「お腹まわりに脂肪がつきやすくなる」変化が、骨盤底への負担にもつながりうることを示唆しています。
骨盤底筋を守るための習慣
- 骨盤底筋を締める・緩めるという動きを、日常の中で意識的に繰り返す
- 即効性を期待せず、12週間程度は継続する目安で取り組む
- 呼吸を止めずに行う、お腹全体やお尻に力を入れすぎないなど、正しいやり方を意識する
- 自分の収縮感覚に自信が持てない場合は、専門家の指導を受ける
- 症状が強い・生活に支障が出ている場合は、自己流で対応せず婦人科や専門家に相談する
まとめ:尿もれは”年齢のせい”で片付けない
骨盤底筋の働きが弱まることによる尿もれは、更年期以降の女性の半数近くが経験しうる、決して珍しくない変化です。タイプによって背景にある仕組みは異なりますが、骨盤底筋トレーニングには、症状の改善に関する確かな研究データがあり、特別な道具なしに日常で取り組める対策でもあります。恥ずかしいことと捉えて我慢するより、根拠のある対策から始めてみることをおすすめします。
あわせて、コクラン・レビューでは腹圧性尿失禁の女性の56%が「治った」と報告したこと、簡単な説明だけでは約半数しか正しく収縮できていなかったこと、肥満のある女性では減量も尿もれを減らしたことが示されています。「やり方の確認」と「続けること」が、効果を左右するポイントです。
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参考文献
- Marcellou EG, et al. Effect of pelvic floor muscle training on urinary incontinence symptoms in postmenopausal women: A systematic review and meta-analysis. Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol. 2025;304:134-140. DOI: 10.1016/j.ejogrb.2024.11.040
- Dumoulin C, Cacciari LP, Hay-Smith EJC. Pelvic floor muscle training versus no treatment, or inactive control treatments, for urinary incontinence in women. Cochrane Database Syst Rev. 2018;10(10):CD005654. DOI: 10.1002/14651858.CD005654.pub4
- Bump RC, Hurt WG, Fantl JA, Wyman JF. Assessment of Kegel pelvic muscle exercise performance after brief verbal instruction. Am J Obstet Gynecol. 1991;165(2):322-327. DOI: 10.1016/0002-9378(91)90085-6
- Subak LL, Wing R, West DS, et al. Weight loss to treat urinary incontinence in overweight and obese women. N Engl J Med. 2009;360(5):481-490. DOI: 10.1056/NEJMoa0806375

