「更年期に入ってから太りやすくなった」「同じ生活をしているのに体重が落ちにくい」——そんな声をよく耳にします。以前の記事では更年期の体脂肪分布の変化について取り上げましたが、今回は「なぜ痩せにくくなるのか」という代謝の仕組みに焦点を当てて解説します。
エストロゲンとエネルギー消費の関係
女性ホルモンの一種であるエストロゲンは、食欲の調整や脂肪の蓄積・代謝、インスリンの働きなど、エネルギー代謝に関わる複数の仕組みに影響していると考えられています。
2023年に発表されたシステマティックレビューでは、エストロゲンの投与がエネルギー消費に与える影響を検討した10件の研究がまとめられています。その結果、更年期のホルモン療法の文脈では、エストロゲンの補充によって安静時のエネルギー消費量が、1日あたり最大222kcal程度増加したと報告されています。
裏を返せば、更年期に入りエストロゲンの分泌が急激に減ると、この分の安静時エネルギー消費が失われる可能性があるということです。「同じ生活をしているのに太りやすくなった」という感覚には、ホルモンの変化という裏付けがあると考えられます。
もう一つの主役、FSH(卵胞刺激ホルモン)
更年期のホルモン変化というと、エストロゲンの減少がまず注目されますが、近年の研究では、脳下垂体から分泌される卵胞刺激ホルモン(FSH)の上昇にも関心が向けられています。
閉経が近づくと、卵巣からのエストロゲン分泌が減る一方、それを補おうとする形で脳からのFSH分泌が増加します。
動物実験の段階ではありますが、FSHそのものが脂肪細胞に直接作用し、エネルギーを消費しにくい「白色脂肪」を蓄積させる方向に働く可能性が報告されています。
逆にFSHの働きを阻害すると、エネルギー消費を担う「褐色脂肪」様の変化(ベージュ化)が促され、代謝が活発になる可能性を示した報告もあります。
エストロゲンとFSH、両方のホルモン変化が、更年期の体組成の変化に関わっている可能性があるということです。
脂肪が「つきやすい場所」も変わる
エストロゲンには、お尻や太ももに脂肪を蓄積させる働きがあるとされ、この作用が失われることで、更年期以降は内臓脂肪を中心とした体幹部への脂肪蓄積が進みやすくなると考えられています。
これは、以前の記事でお伝えした「更年期に体脂肪の分布が変わる」という内容とも一致する仕組みです。
つまり更年期の体重・体型の変化は、「意志が弱いから」でも「単に年齢を重ねただけ」でもなく、複数のホルモンの変化に伴う代謝の仕組みの変化として、ある程度説明がつくものだといえます。
睡眠・活動量との悪循環にも注意
代謝の変化に加えて、更年期には睡眠の質の低下や、のぼせ・発汗といった症状による中途覚醒が起こりやすくなることも、以前の記事でお伝えした通りです。
睡眠不足や睡眠の質の低下は、食欲を調整するホルモン(レプチン・グレリン)のバランスを乱し、高カロリーな食事への欲求を高める方向に働くことが、一般的な睡眠研究の分野で指摘されています。
また、体重が増えたり関節に負担を感じたりすることで日常的な活動量が落ち、それがさらなる筋肉量の低下と代謝の低下につながる、という悪循環も起こりやすいと考えられます。更年期の体重変化は、ホルモン・睡眠・活動量が絡み合った、複合的な現象として捉える必要がありそうです。

代謝の変化と付き合う工夫
- 「代謝が落ちるのは当然」と諦めるのではなく、筋肉量を保つ運動を意識的に取り入れる
- 座りっぱなしの時間を減らし、日常的な活動量を落とさない
- たんぱく質を含めたバランスの良い食事を意識する
- 睡眠の質にも目を向け、悪循環を断ち切る意識を持つ
- 体重の増減だけでなく、体組成(脂肪・筋肉のバランス)にも目を向ける
運動介入は効果があるのか
「代謝が落ちるなら、運動しても無駄なのでは」と感じる方もいるかもしれませんが、これについては明確な研究データがあります。
更年期移行期の女性を対象にした生活習慣介入に関するシステマティックレビューでは、有酸素運動や食事指導を組み合わせた介入によって、体重増加を抑制する、あるいは減量につながる効果が複数の研究で確認されています。
興味深いのは、運動の「種類」による違いです。
有酸素運動
ウォーキングやジョギングなど、酸素を使い続けながら行う運動です。体重・体脂肪の減少に強みを持つ傾向が示されています。
レジスタンス運動(筋力トレーニング)
筋肉に負荷をかけて鍛える運動です。筋肉量の維持・増加に強みを持つ傾向が示されています。
更年期の体組成変化(脂肪の増加と筋肉の減少が同時に進む)を踏まえると、両方を組み合わせることが理にかなっていると考えられます。「代謝が落ちるから運動しても意味がない」のではなく、「代謝が落ちやすい時期だからこそ、運動の効果が相対的に大きな意味を持つ」と捉える方が、実態に近いといえそうです。
施術の現場でもよく聞く体型の変化
施術をしていても、更年期以降の女性から「お腹まわりや骨盤まわりに肉がつきやすくなった」「以前より痩せにくく、ちょっと食べるとすぐ体重が増える」という声を聞く機会は多いです。食事内容を大きく変えていないのに体型だけ変わったと感じる方が多いのも、ここまで説明してきたホルモンバランスの変化と一致する傾向だと感じています。
睡眠不足は、食欲のホルモンをどう変えるのか
前半で触れた「睡眠の質の低下が食欲に影響する」という点について、具体的な実験があります。健康な若い男性12人を対象に、睡眠を制限した2日間と、睡眠を延ばした2日間を、食事内容や活動量を統一した条件で比べた、ランダム化クロスオーバー試験です(Spiegel et al., 2004, Annals of Internal Medicine)。
睡眠を制限した条件では、食欲を抑えるホルモンのレプチンが平均18%減り、食欲を高めるホルモンのグレリンが28%増えていました。空腹感は24%、食欲は23%増え、とくに、炭水化物の多い高カロリーな食べ物への欲求は33〜45%も高まっていました。
この研究は、12人の若い男性を対象にした短期間の実験で、エネルギー消費は測られていません。更年期の女性にそのまま当てはまるとは限りませんが、更年期の睡眠の悩みが、体重の増えやすさにも関わりうる、という方向性を示しています。睡眠の見直しは、体重管理の面でも意味があるといえます。
食事と運動、どちらがどれだけ効くのか
閉経後の女性で、食事と運動のどちらが体重や体組成に効くのかを比べた、1年間の大規模な試験があります。運動習慣のない、過体重〜肥満の閉経後の女性439人(平均58歳、平均BMI 30.9)を、食事(カロリー制限)群、運動(有酸素運動)群、食事+運動群、対照群の4群に割り付けています(Foster-Schubert et al., 2012, Obesity)。
1年後の体重の変化は、食事群で-8.5%、運動群で-2.4%、食事+運動群で-10.8%でした(対照群は-0.8%)。腹囲や体脂肪率も、同じように低下しています。運動は、中等度の有酸素運動を、段階的に1回45分・週5日まで増やすという内容でした。
体重を減らすうえでは、食事の見直しの影響が最も大きく、運動単独の効果は控えめでした。一方で、食事と運動を組み合わせた群が、最も大きな効果を示しています。「運動だけで体重を落とそうとする」より、食事も含めて組み合わせるほうが現実的だ、ということです。筋肉量の維持という面では、先に紹介したレジスタンス運動の意義もあります。
なお、この試験の対象は、運動習慣のない、過体重〜肥満の女性です。標準的な体格の方では、体重の変化の大きさは異なる可能性があります。
まとめ:ホルモンの変化を前提に考える
更年期に太りやすくなる背景には、エストロゲンの減少に伴う安静時エネルギー消費の低下、FSHの上昇といった複数のホルモン変化、そして睡眠の質の低下や活動量の減少が絡み合った、複合的な仕組みがあると考えられます。「歳のせい」と一括りにするのではなく、身体の変化を理解した上で、筋肉量の維持や活動量の確保に取り組むことが、長期的には大切だと考えています。
あわせて、睡眠が不足すると食欲のホルモンのバランスが変わり、高カロリーな食べ物への欲求が高まること、体重を減らすには、運動だけでなく食事も含めて組み合わせるほうが効果が大きいことも、研究から示されています。睡眠・食事・運動を、一つずつではなく組み合わせて見直すのが現実的です。
参考文献
- Weidlinger S, et al. Impact of estrogens on resting energy expenditure: A systematic review. Obes Rev. 2023;24(10):e13605. DOI: 10.1111/obr.13605
- Spiegel K, Tasali E, Penev P, Van Cauter E. (2004). Brief communication: Sleep curtailment in healthy young men is associated with decreased leptin levels, elevated ghrelin levels, and increased hunger and appetite. Ann Intern Med, 141(11), 846-850. DOI: 10.7326/0003-4819-141-11-200412070-00008
- Foster-Schubert KE, Alfano CM, Duggan CR, et al. (2012). Effect of diet and exercise, alone or combined, on weight and body composition in overweight-to-obese postmenopausal women. Obesity (Silver Spring), 20(8), 1628-1638. DOI: 10.1038/oby.2011.76

