「更年期になると骨が弱くなる」「閉経後は骨がどんどんもろくなっていく」——そんな話を耳にしたことはありませんか。
前回までの記事でお伝えしてきたように、身体の変化は「ずっと同じペースで進行し続ける」というよりも、時期によって変化の速さが異なることが少なくありません。
骨密度の低下もその一つです。実際には、急速に骨量が減る期間には限りがあり、その後は減少のペースが緩やかになることが、大規模な研究で示されています。
この記事では、更年期に骨密度が下がる仕組みと、実際にいつ・どのくらい変化するのか、そして姿勢との関係について、研究データをもとに整理します。
骨密度とは何か
骨密度とは、骨の中にどれくらいカルシウムなどのミネラルが詰まっているかを示す指標です。
骨は一度作られたら変化しないものではなく、古い骨を壊す「骨吸収」と、新しい骨を作る「骨形成」を、生涯にわたって繰り返しています。このサイクルは「骨リモデリング」と呼ばれています。
骨吸収と骨形成のバランスが保たれている間は、骨密度は大きく変化しません。しかし、このバランスが崩れ、骨吸収が骨形成を上回ると、骨密度が低下していくと考えられています。
なぜ更年期に骨密度が下がるのか
女性ホルモンの一種であるエストロゲンには、骨を壊す働きをする「破骨細胞」の活動を抑え、骨を作る「骨芽細胞」の働きを助ける作用があるとされています。
更年期に入り、卵巣から分泌されるエストロゲンが急速に減少すると、この抑制が効きにくくなり、骨吸収が骨形成を上回りやすくなると考えられています。
このため、更年期は骨密度が低下しやすい時期として知られています。
実際に、いつ・どのくらい骨密度は下がるのか
「更年期になったら骨密度が下がる」という大まかな理解に加えて、実際にいつから、どのくらいの期間、どの程度下がるのかを知っておくと、必要以上に不安になりすぎずに済むかもしれません。
なお、ここから紹介する研究では、「更年期」という幅のある期間ではなく、最終月経(Final Menstrual Period:FMP)を基準として骨密度の変化を追跡しています。最終月経とは、実際に起こった最後の月経をさかのぼって確定される日付であり、一般的な「更年期」という言葉よりも、医学研究の中ではより具体的な指標として使われています。
骨密度の低下はいつから始まるのか
SWAN(Study of Women’s Health Across the Nation)というアメリカの大規模な縦断的コホート研究の中で、最終月経(Final Menstrual Period:FMP)を経験した862人(アフリカ系アメリカ人242人、白人384人、中国系117人、日本人119人)を解析した研究では、最終月経の前後にわたって骨密度の変化が追跡されました(Greendale et al., 2012)。
その結果、骨密度が急速に低下し始めるのは、最終月経のおよそ1年前からであり、閉経したその日を境に急に始まるわけではないことが示されています。
どのくらいの期間、どのくらい減るのか
同じ研究では、急速な骨密度の低下は、最終月経の前後を含むおよそ3年間続き、その後は減少のペースが緩やかになる(ただし止まるわけではない)と報告されています。
10年間の累積でみると、腰椎(背骨の腰の部分)で平均10.6%、大腿骨頸部(脚の付け根)で平均9.1%の骨密度低下がみられ、そのうちの多くがこの急速な低下期間に生じていたとされています。
骨密度だけでなく、骨の質も変化する
骨の強さは、骨密度(量)だけでなく、骨の内部構造(質)にも左右されると考えられています。
2020年に発表された同じSWAN研究のグループによる報告では、骨の内部構造を反映する指標(TBS)も、最終月経の1.5年前から低下し始め、年間およそ1.16%のペースで低下し、閉経から2年を過ぎるとそのペースは年間およそ0.89%に緩やかになったとされています(Greendale et al., 2020)。
このように、骨密度・骨の質のいずれも、「急速に変化する時期」と「その後緩やかになる時期」があることが、研究によって示されています。
骨密度の低下と姿勢の関係
骨密度が大きく低下すると、背骨(椎体)がもろくなり、日常生活の中の軽い負荷でも骨折(圧迫骨折)が起こりやすくなることがあるとされています。
背骨の圧迫骨折が起こると、背中が丸まった姿勢(円背)につながることがあると言われています。これが、「更年期以降に姿勢が変わりやすい」と言われる背景のひとつと考えられます。
ただし、骨密度が下がったからといって、誰にでも圧迫骨折や姿勢の変化が起こるわけではありません。骨密度の変化は個人差が大きく、姿勢そのものも、これまでの記事でお伝えしてきたように筋力や日々の身体の使い方など、複数の要素が関わって作られています。
そのため、「更年期になったら姿勢が悪くなるのは仕方がない」と一つの理由に絞り込むのではなく、骨・筋肉・生活習慣といった複数の側面から捉えていただく方が実態に近いと考えられます。
日常でできること
骨密度の急速な低下が始まる時期は、生活習慣を見直す一つのきっかけとして捉えていただくことをおすすめします。
- 歩行や軽い筋力トレーニングなど、骨に適度な負荷がかかる運動を継続する
- カルシウムやビタミンDを含む食品を意識して摂る
- 禁煙や過度な飲酒を控える
- 気になる場合は、骨密度検査を受けてみる
- 背中や腰の痛み、身長の変化が気になる場合は自己判断せず医療機関に相談する
これまでの記事でお伝えしてきたように、骨についても「一つの対策で急激に変わる」というものではなく、無理のない範囲で生活習慣を継続していくことが大切だと考えています。
まとめ
更年期に骨密度が下がるのは、エストロゲンの減少によって骨のリモデリングのバランスが崩れることが背景にあると考えられています。
ただし、急速に骨量が減る期間はおよそ3年間に限られ、その後は減少のペースが緩やかになることが、大規模な研究で示されています。
骨密度の低下は姿勢の変化に関わる可能性がありますが、それだけで説明できるものではなく、筋力や生活習慣など複数の要素とあわせて考える必要があります。
次回は、呼吸と姿勢の関係について解説していきます。
参考文献
Greendale GA, Sowers M, Han W, Huang MH, Finkelstein JS, Crandall CJ, Lee JS, Karlamangla AS. Bone mineral density loss in relation to the final menstrual period in a multiethnic cohort: results from the Study of Women’s Health Across the Nation (SWAN). J Bone Miner Res. 2012;27(1):111-118. DOI: 10.1002/jbmr.534
Greendale GA, Huang MH, Cauley JA, Liao D, Harlow S, Finkelstein JS, Hans D, Karlamangla AS. Trabecular Bone Score Declines During the Menopause Transition: The Study of Women’s Health Across the Nation (SWAN). J Clin Endocrinol Metab. 2020;105(4):e1872-e1882. DOI: 10.1210/clinem/dgz056
