「30代を過ぎると基礎代謝が落ちる」「筋肉をつければ基礎代謝が上がって痩せやすくなる」——ダイエットの話題でよく耳にする内容です。
もちろん、筋肉量を維持することは健康や身体機能にとって大切です。ただ、基礎代謝や体重の変化を「筋肉が増えたかどうか」だけで説明するのは、少し単純化しすぎているかもしれません。
基礎代謝は、筋肉だけでなく、肝臓や脳、心臓、腎臓など、さまざまな組織が生命活動を維持するために消費するエネルギーの合計です。また、年齢による変化にも、体組成や活動量、ホルモン環境など複数の要素が関係していると考えられています。
この記事では、基礎代謝の仕組みを整理しながら、「筋肉をつければ代謝が劇的に上がる」というイメージがどこまで正しいのか、そして「年齢とともに代謝が下がる」という話は本当なのかを、具体的な数字と出典とともに解説します。
基礎代謝とは何か
基礎代謝とは、何もせず安静にしている状態でも、生命を維持するために消費されているエネルギーのことです。
心臓を動かす、体温を保つ、呼吸をするといった、生きていくために欠かせない働きに使われています。
1日の総エネルギー消費量は、大きく分けて「基礎代謝」「身体活動によるエネルギー消費」「食事の消化・吸収に使われるエネルギー」の3つで構成されるとされています。
このうち基礎代謝が占める割合は、成人でおよそ50〜70%程度とされることが多く、1日の消費エネルギーの中で最も大きな部分を占めると報告されています(Pontzer et al., 2021)。
基礎代謝の内訳―筋肉だけではない
「基礎代謝を上げる=筋肉をつける」というイメージを持っている方は多いのではないでしょうか。
しかし、安静時のエネルギー消費を組織別に検討した研究では、骨格筋(筋肉)が占める割合は全体の20〜30%程度とされています(Wang et al., 2010)。
同じ研究では、脳・肝臓・心臓・腎臓の4つの臓器だけで、安静時のエネルギー消費のおよそ60〜70%を占める一方、これらの臓器の重さは体重全体の6%に満たないとも報告されています。
つまり基礎代謝は、筋肉だけでなく、体重に占める割合は小さくても代謝の活発な内臓によって、大きく支えられていると考えられます。
筋肉を1kg増やすと基礎代謝はどれくらい増えるのか
では、実際に筋肉を1kg増やすと、基礎代謝はどのくらい変化するのでしょうか。
組織ごとの代謝量を検討した報告では、筋肉1kgあたりの安静時エネルギー消費量はおよそ13kcal/日とされています(Elia, 1992;Wang et al., 2010)。
これは、肝臓(約200kcal/kg/日)や脳(約240kcal/kg/日)と比べると、かなり小さな値です。
単純計算すると、筋肉を1kg増やしても、基礎代謝の増加量は1日あたり13kcal程度にとどまる可能性があります。
もちろん、筋肉を増やすことには、日常生活の活動量を増やしやすくなる、姿勢を支えやすくなるなど、代謝以外にもさまざまな意味があります。
ただ、「筋肉さえつければ代謝が劇的に上がり、みるみる痩せる」というイメージは、実際の数字と比べるとやや単純化されすぎていると言えそうです。
基礎代謝は本当に年齢とともに下がるのか
「年齢とともに基礎代謝は下がっていく」というのはよく聞く話ですが、この点についても、近年の研究では単純ではないことが示されています。
20〜60歳では意外と安定している?
2021年に発表された大規模な研究では、生後8日から95歳までの幅広い年齢層を対象に、体格(除脂肪量)で調整したエネルギー消費量が調べられました(Pontzer et al., 2021)。
その結果、20歳から60歳までの成人期では、エネルギー消費量は比較的安定していたと報告されています。
つまり、この年代でみられる代謝の変化の多くは、内臓や細胞の働きそのものが衰えるというより、筋肉量など身体を構成する組織の量が変化することによる部分が大きいと考えられます。
60歳以降にみられる変化
同じ研究では、60歳を過ぎると、体格で調整したあとでもエネルギー消費量の低下がみられたと報告されています。
このことから、代謝そのものの低下がはっきりと現れてくるのは、60歳以降である可能性が示唆されています。
30〜40代からの緩やかな変化について
一方で、別の研究グループからは、30代後半から40代にかけて、除脂肪量あたりの安静時代謝量がすでに緩やかに低下し始めているという報告もあります。
研究によって着目している指標や対象者が異なるため、結論が完全に一致しているわけではありません。
いずれの研究にも共通しているのは、「年齢を重ねただけで代謝が一直線に下がり続ける」と単純に捉えるのではなく、体組成や活動量の変化とあわせて考える必要がある、という点です。
更年期とホルモンバランスの変化
女性の場合、更年期前後にエストロゲンなどのホルモンの分泌量が変化することも、体重や体型の変化に関わる要因のひとつとして挙げられています。
ただし、これはホルモンだけの問題ではなく、この時期に起こりやすい体組成の変化や、身体活動量の減少、睡眠の質の変化なども重なって影響している可能性があると考えられています。
「更年期だから代謝が落ちて仕方がない」と一つの理由に絞り込むのではなく、生活全体の変化として捉えていただく方が実態に近いと考えています。
「筋肉をつければ代謝が劇的に上がる」という誤解のまとめ
ここまで見てきたように、筋肉が基礎代謝に占める割合は2〜3割程度で、筋肉1kgあたりの代謝量もそれほど大きくありません。
また、年齢による代謝の変化も、単純に「筋肉が減ったから」だけでは説明しきれない部分があります。
「筋肉をつければ代謝が劇的に上がり、太りにくい身体になる」というのは、実際の身体の仕組みと比べるとやや単純化されすぎたイメージだと言えそうです。
日常でできること――代謝を「上げる」より「落とさない」
基礎代謝そのものを大きく上げることは簡単ではありませんが、代謝が落ちにくい生活を続けることはできます。
- 運動習慣を継続し、筋肉量や体力の低下を緩やかにする
- 座りっぱなしを避け、日常的に身体を動かす機会を増やす
- たんぱく質を含めたバランスの良い食事を意識する
- 極端な食事制限を避ける
- 睡眠をしっかりとり、身体のコンディションを整える
代謝を「劇的に上げる」ことを目指すよりも、年齢に応じた身体の変化を理解したうえで、無理のない範囲で生活習慣を整えていくことが、長期的には大切だと考えています。
まとめ
基礎代謝は、筋肉だけでなく、肝臓や脳などの内臓を含めた身体全体で作られているエネルギー消費です。
「年齢とともに代謝が下がる」という話も、少なくとも60歳になるまでは、体組成の変化を除くと比較的安定しているとする研究があります。
「筋肉をつければ代謝が劇的に上がる」というイメージも、実際の数字で見ると単純化されすぎている部分があります。
大切なのは、一つの要因に飛びつくのではなく、身体全体の仕組みを理解したうえで、無理のない生活習慣を積み重ねていくことだと考えています。
次回は、たんぱく質と姿勢・筋力の関係について解説していきます。
参考文献
Pontzer H, Yamada Y, Sagayama H, et al. Daily energy expenditure through the human life course. Science. 2021;373(6556):808-812.
Wang Z, Ying Z, Bosy-Westphal A, et al. Specific metabolic rates of major organs and tissues across adulthood: evaluation by mechanistic model of resting energy expenditure. Am J Clin Nutr. 2010;92(6):1369-1377.
Elia M. Organ and tissue contribution to metabolic rate. In: Kinney JM, Tucker HN, eds. Energy Metabolism: Tissue Determinants and Cellular Corollaries. New York: Raven Press; 1992:61-80.

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