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更年期の関節痛はなぜ起こるのか?エストロゲンとの関係を研究データから解説


関節痛,膝 身体の基本(生理学・栄養学)

「朝、指がこわばる」「階段の上り下りで膝が痛む」——更年期に入ってから、関節の違和感を訴える方は少なくありません。今回はこの「更年期の関節痛」について、研究データを整理します。

更年期の関節痛は、実はかなり多くの人が経験している

2020年に発表されたシステマティックレビュー・メタ解析(Lu et al., 2020, Neural Plasticity)では、更年期移行期における筋骨格系の痛みについて、16件の研究が統合されています。

その結果、更年期移行期の女性のうち71%(5,836人中4,144人、95%信頼区間 64〜78%)が、何らかの筋骨格系の痛みを経験していると推定されました。閉経前の女性と比べると、移行期の女性では痛みを経験するオッズが1.63倍(1.35〜1.96)高い一方で、閉経後の女性とはほぼ同程度でした(1.07、0.95〜1.20)。

「痛みがある」かどうかとは別に、中等度〜重度の痛みについては、閉経後の女性が閉経前の女性の1.45倍(1.21〜1.75)、移行期の女性の1.40倍(1.09〜1.79)と、年齢とともに直線的に高まる傾向が示されています。つまり、痛みのある人の割合は移行期で一段上がり、その後は、痛みの「重さ」のほうが増えていく、という構図です。

2024年に発表されたレビュー(Wright et al., 2024, Climacteric)でも、閉経移行期の女性の70%以上が筋骨格系の症状を経験し、約25%が、それによって日常生活に支障をきたしていると推定されています。

なぜ関節が痛みやすくなるのか

このレビュー(Wright et al., 2024)では、エストロゲンの変動に大きく影響される、関節痛・筋肉量の減少・骨密度の低下・変形性関節症の進行といった一連の症状が、「更年期の筋骨格症候群」という一つの概念としてまとめられています。それぞれの症状は単独では見過ごされやすく、エストロゲンの減少との関連が認識されにくい、というのが提唱の背景です。

関節への影響としては、エストロゲンの減少によって、炎症に関わる物質や酸化ストレスの働きが強まり、軟骨の材料となるコラーゲンなどの産生を促す働きが弱まる、という経路が考えられています。ただし、これらの仕組みの多くは、動物実験や基礎研究にもとづく考え方で、ヒトで因果関係が直接確かめられているわけではありません。

「エストロゲンが減るから必ず関節が痛む」と単純に言い切れるものではなく、あくまで、関節の痛みと関連する複数の要因の一つとして理解しておくのが適切です。

骨・筋肉・体重の変化とも、同時に進みやすい

エストロゲンの減少は、関節だけでなく、骨密度の低下や、筋肉量の減少(サルコペニア)とも、同じ時期に進むとされています。関節を支える周囲の筋肉が弱くなれば、関節そのものへの負担も相対的に増えます。

更年期には、体脂肪の分布が変わり、体重が増えやすくなることも、これまでの記事でお伝えしてきました。体重の増加は、膝や股関節など、体重を支える関節への負担をさらに増やします。関節痛、骨密度の低下、筋力の低下、体重の変化は、それぞれ別の現象に見えて、エストロゲンの変化という共通の背景が関わっている、と考えられています。

ホルモン補充療法は、関節痛に効くのか

エストロゲンの減少が関節痛に関わっているのであれば、補充すれば和らぐのではないか、という疑問が出てきます。この点は、アメリカの大規模なランダム化比較試験(WHI)の追加解析で検討されています(Chlebowski et al., 2013, Menopause)。子宮を摘出した閉経後の女性10,739人を、結合型エストロゲン(1日0.625mg)を飲む群と、プラセボ(偽薬)を飲む群に割り付けています。

試験の開始時点で、約77%に関節痛が、約40%に関節の腫れがありました。1年後、関節痛の頻度は、エストロゲン群のほうが有意に低く(76.3%対79.2%、p=0.001)、痛みの強さも軽くなっていました。この差は、3年後まで続いています。

一方で、関節の腫れの頻度は、エストロゲン群のほうが高い結果でした(42.1%対39.7%、p=0.02)。治療を指示どおり続けた人を対象に調整すると、痛みの軽減との関連は強まり、腫れの増加との関連は弱まっています。研究者らは、エストロゲン単独の使用は、関節痛の頻度を「わずかだが持続的に」下げる、と結論づけています。

数字を見ると、差は3ポイント程度で、劇的な改善というより「わずか」な差です。また、この結果は、子宮を摘出した女性に行う「エストロゲン単独」の試験のものです。ホルモン補充療法は、関節痛のためだけに選ぶ治療ではなく、のぼせなどの更年期症状、病歴、リスクなどを踏まえて、婦人科で相談して決めるものです。自己判断で始められるものではありません。

更年期の関節痛、7割が経験する「よくある症状」
更年期の関節痛、7割が経験する「よくある症状」

運動と体重管理は、関節の痛みにどう効くのか

ホルモン以外の手段として、運動や体重管理の効果も調べられています。ただし、更年期の関節痛そのものを対象にした質の高い試験は多くなく、ここで紹介するのは、膝の変形性関節症(膝OA)を対象にした研究です。更年期の方にそのまま当てはまるとは限らない点を、あらかじめお断りしておきます。

運動:痛みと機能は改善するが、効果の大きさは「不確か」

膝OAに対する運動の効果は、139件の試験(12,468人)を統合した、2024年のコクラン・レビューで整理されています(Lawford et al., 2024)。何もしない場合や通常のケア、限定的な教育と比べると、運動は、直後の痛みを100点満点で平均13.1点(95%信頼区間 10.4〜15.9、確実性は低い)、身体機能を12.5点(9.7〜15.3、確実性は中程度)改善していました。

ただし、「臨床的に意味のある最小の差」とされる基準(痛みで12点、機能で13点)に照らすと、信頼区間が基準に届かない、あるいは基準を挟んでいるため、効果の臨床的な重要性は「不確か」と評価されています。運動の種類による差は見られませんでした。また、参加者の多くは自分がどの治療を受けているか知っていたため、改善には期待の影響も混ざっている可能性が指摘されています。

体重:1kgの減量が、膝への負荷を約4kg分軽くする

体重と関節への負荷の関係を調べた研究があります。過体重・肥満の高齢の膝OA患者142人の歩行を3次元で解析した研究(Messier et al., 2005, Arthritis & Rheumatism)では、体重が1kg減るごとに、歩行時の膝への圧縮力が約40Nずつ(体重の変化量の約4倍)減っていました。研究者らは、1ポンド減るごとに、1歩ごとの膝への負荷が4ポンド分軽くなる、と表現しています。

さらに、膝OAのある過体重・肥満の高齢者454人を対象にした、18か月間のランダム化比較試験(IDEA試験、Messier et al., 2013, JAMA)があります。食事+運動群は平均10.6kg(11.4%)、食事群は8.9kg(9.5%)、運動群は1.8kg(2.0%)減量しました。痛み(0〜20点)は、食事+運動群が3.6点と、食事群(4.8点)、運動群(4.7点)より軽く、身体機能も、食事+運動群が最も良好でした。

「食事の見直しと運動を組み合わせる」ことの意義は、更年期太りの記事で紹介した、閉経後の女性での食事と運動の比較とも、方向が一致します。

関節痛と付き合うために、日常でできること

  • 「歳のせい」と諦める前に、更年期特有のホルモン変化が関わっている可能性を知っておく
  • 関節周囲の筋力を保つ運動を、無理のない範囲で継続する(種類より、続けやすさを優先する)
  • 体重の増加が気になる場合は、食事の見直しと運動を組み合わせる
  • 関節の腫れや熱感、朝のこわばりが長く続く場合は、整形外科やリウマチ科で原因を調べてもらう
  • ほてりなど他の更年期症状も強い場合は、婦人科でホルモン補充療法を含めた選択肢を相談する

まとめ:「歳のせい」だけではない、複数の要因が重なる症状

更年期の関節痛は、更年期移行期の女性の7割が経験するとされる、決して珍しくない症状です。エストロゲンの減少は、関節の炎症や軟骨の状態、骨や筋肉の変化と関わると考えられていますが、その仕組みの多くは動物実験や基礎研究にもとづくもので、ヒトでの因果関係は十分に確かめられていません。

ホルモン補充療法は、関節痛の頻度を「わずかに」下げる可能性が示されている一方、関節の腫れが増える傾向もあり、関節痛のためだけに選ぶ治療ではありません。運動や体重管理は、膝の関節炎の研究では、痛みと機能の改善が示されており、食事と運動を組み合わせた場合に最も痛みが軽くなりました。「歳のせい」と片付けず、筋力・体重・ホルモンの面から、できる範囲で見直していくことが、現実的なケアにつながると考えられます。

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参考文献

  • Lu CB, Liu PF, Zhou YS, et al. (2020). Musculoskeletal Pain during the Menopausal Transition: A Systematic Review and Meta-Analysis. Neural Plast, 2020, 8842110. DOI: 10.1155/2020/8842110
  • Wright VJ, Schwartzman JD, Itinoche R, Wittstein J. (2024). The musculoskeletal syndrome of menopause. Climacteric, 27(5), 466-472. DOI: 10.1080/13697137.2024.2380363
  • Chlebowski RT, Cirillo DJ, Eaton CB, et al. (2013). Estrogen alone and joint symptoms in the Women’s Health Initiative randomized trial. Menopause, 20(6), 600-608. DOI: 10.1097/GME.0b013e31828392c4
  • Lawford BJ, Hall M, Hinman RS, et al. (2024). Exercise for osteoarthritis of the knee. Cochrane Database Syst Rev, 2024(12), CD004376. DOI: 10.1002/14651858.CD004376.pub4
  • Messier SP, Gutekunst DJ, Davis C, DeVita P. (2005). Weight loss reduces knee-joint loads in overweight and obese older adults with knee osteoarthritis. Arthritis Rheum, 52(7), 2026-2032. DOI: 10.1002/art.21139
  • Messier SP, Mihalko SL, Legault C, et al. (2013). Effects of intensive diet and exercise on knee joint loads, inflammation, and clinical outcomes among overweight and obese adults with knee osteoarthritis: the IDEA randomized clinical trial. JAMA, 310(12), 1263-1273. DOI: 10.1001/jama.2013.277669
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